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3-山田

「はぁ?!んなの信じるとかお前アホなの?…ダメだ純粋にも程がある」 「…るせぇな」 俺は安藤に事の経緯を全て話した。 綾木に薬を貰った事、落としたそれを三島ってゴミ野郎に拾われた事。 俺をゴミ島の番と偽る事で、最悪他の社員にΩだと知られても逃げられるように…え、エッチせずに噛み痕だけを軽く付けてもらうと約束した事を。 「そもそもヤらずに噛むだけっつってもヤマダになんの後遺症も残らねー保障はどこにあんだよ」 「な、おま…ヤ……とか。くっ口が悪りぃんだよボケ!」 「おまいう?」 確かに自分がどうなるのか、そんなの考えてもいなかった。もしもゴミ島に付けられた痕が何かしらの影響を及ぼし、今後の人生が歪むような事があれば……俺、一生後悔しながら生きていかなきゃならないところだった。 あんなゴミの言う事を信じた俺って、安藤の言う通り本物のアホだったんじゃないか…? 「…う、ぅ……俺何して…んだ、ほっ…んとに……っ」 「あーあ、泣くなよ…ヤマダ君はそんなに泣き虫だったんですかぁ?」 うぜぇ奴。人の命かかってんのに揶揄うみたいに笑いやがって。 俺だってお前みたいな奴の前で泣きたくなんかなかったし。今更怖くて震えるし、涙止まらねぇし。 必死に袖で目元を擦っていると、俺より5段くらい下にいた安藤が立ち上がる。ポケットから取り出したのは、また何処かで見た事がある海外ブランドのロゴがついたハンカチだった。 「んー…俺の使えそう?事故りそうならティッシュもあるけど」 「んん…多分、平気」 「そか。手ぇここまで届く?落ちんなよ」 手すりに片腕を引っ掛けたまま伸ばされたもう片方の手は、綺麗に畳まれていたそれをいっぱいに広げて俺からの手応えを待つ。 俺より大きな掌、長い指。ペンダコ一つ無いんだから、やっぱりコイツはクソサボリーマンだ。…左利きだっただけならごめん。 「…高級ハンカチ、Ωに汚されて怒んねぇの」 「なーに言ってんだよバーカ」 Ωが汚く、惨めだと認めているんじゃない。あくまで一般論だ。 俺がどんなに強くても、出来る奴でも、たとえ空を飛べたとしても、Ωとして生まれたその日から、どうせ見下される運命は変えられなかった。 それなのに、安藤は一般的な正解を口にした俺をバカと言う。 「俺はね、お前の事気に入ってんの。仲良くしたいと思ったから話し掛けたし、今も一緒に居るワケ。…偶然Ωだったってだけで、ヤマダはヤマダだろ」 「……んだ、それ。早くハンカチ寄越せバカ」 「うわ、バカって言った方がバカだぞ」 「なら俺より先にバカって言ったテメェの方がやっぱりバカじゃねぇか」 「あれ、そんなこと言ったっけ」 マジで意味わかんねぇ。MS商事って変人の集まりなのかよ。綾木といいコイツといい…。 ハンカチの肌触りは抜群で、ただ柔軟剤なんか掻き消す香水の匂いが、少し胸を締め付けた。 安藤って、多分凄くモテんだろうな…って。

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