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3-安藤

あっっぶねー…良かった。なんとか耐え切る事が出来て、本当に。 怖がらせてしまっただろうか。最後の…あの表情は、明らかに怯えていた。 ヤマダ…基、りゅうと別れ、一目散に近くのトイレへ飛び込んだ。潤んだ目で俺を見上げる姿、ちょっと鈍臭い姿、身の危険に怯え、泣き出す姿…何もかもが予想外で……正直可愛過ぎた。 その上まさかΩだったなんて…。 アイツの前じゃあんな格好つけた事を言ってのけたが、俺がああいった考えを持てるようになったのは最近の話だ。 澄晴が番を見下す事なく、何よりも大切に想っている所が素直に凄いと思った。αだから偉い、Ωだから好きに使えば良い。その考え方は違うんじゃないかと、澄晴達が気付かせてくれた。 きっともう少し早くりゅうと出会っていたならば、今頃俺は彼に対して酷い態度を取っていただろう。それこそ、三島にも負けないような最低な事だって思いついていたかもしれない。 今だったから、大事な友人を失わずに済んだ。 …にしても、一体何だったんだアレは。 急にヒートでも起こしたみたいに匂いを強め、頬を火照らせて。 りゅうから聞いた話によると、澄晴が抑制剤を渡したという日から、まだほんのひと月も経っていないのだ。1ヶ月もしないうちに再びヒートがやってくるなんて話は、今まで生きてきた中で聞いた事も無い。 今回は俺しか居なかったから良かったものの、アイツにこの先もMSのフロアで仕事をさせるのは相当危険なんじゃ無いだろうか。 番持ちのαなんてごく少数だ。 殆どが独身、もしくはαやβの女と付き合っているだけ。 Ωに耐性が無い奴らばかりなんだ……俺を含めて。 まだ俺は良い方だ。Ωの相手は何度かしている。だが、間違っても事故が起きないようヒートの時期は会う事を避け、本格的に縋られる前に関係を断ってきた。 だから、またりゅうがあの状態になった時、その場に俺しか居なかった時、守ってやれる自信はあまり無い。 変な目で見ていたんじゃない。りゅうに伝えた言葉は本心のつもりだ。 けれど、それは我慢していなかったという訳では無くて。 「……くっそ、どうなってんだこの身体…」 過去に関係を持っていたΩが、興奮した際に僅かに漏らすフェロモンなどとはまるで比べ物にならない程の誘惑だった。 口内は今すぐりゅうを欲しがるように唾液の分泌量を増やしている。確かにあの瞬間、俺はりゅうに欲情したのだ。 …全く想像してねーぞ、こんな展開。 俺はただ、りゅうと仕事終わりにメシでも行ける関係になりてーなって、それくらいの気持ちだっただけの筈なのに。 「ちっ…全然おさまんね……」 鳴り止まないスマホにガンスルーを決め込み、独りで自身を慰めたのだった。

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