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3-安藤
「…藤……安藤」
「ん、ぁ?すばる…」
「休憩中にごめん…午前中、特に問題とか無かったか?」
問題だぁ?ありまくりだったっつーの。
呑気に午後出勤しやがって、お疲れモードの俺のお昼寝タイムまで邪魔して良いご身分だよお前は。
1週間分の精神力は使い果たしたぞ。
「仕事は多分平和だったよ。俺途中抜けてたから別の奴に聞いてくれ」
「仕事はって…他に何があるんだ?」
キョトンとした顔で俺を覗き込む澄晴に、文句を言う気すら失せている。折角コンビニで新発売のパンを買ったのに鞄の中で眠ったままだ。こりゃ明日の朝飯にするしかねーな。
「とりあえず、今日飲み行くぞ。付き合えよ」
「あ、ごめん今日は…というか今週は無理だ」
「なんでだよ!!!」
そこは絶対断る所じゃないだろ。俺こんなに憔悴しきってんのに、お前にはわからないのか。そんなに冷酷な人だったなんて知らなかったわよ。
「いや…来碧さんがその、体調を崩していて……」
「1週間も?せめて明日か明後日あけろよ」
「は、はぁ?1週間って言ったら…わ、わかるだろ……察してくれよ」
俺の事は全く察するどころか気にも留めてくれない癖に?自分だけ察せとか言っちゃうんだコイツ。へー、あっそう。冷たい子ね。
「俺と俺の大事なダチの人生かかってんのに、澄晴はそういう態度なんだ。俺お前がいない分すげー頑張ったのになー」
なんて。確かに普段よりは働いた気がするけど他の奴らはその何倍も汗流してた。つーか、澄晴って毎日どんだけの量こなしてんだよ。全員忙しさ倍増してたぞ。
「う、うぅん…わかったよ。来碧さんに聞いてみる」
「なあ……お前さ、今までΩの腕引っ張っただけでヒートにさせた事ある?」
「何だその魔法みたいな技。ある訳ないだろ」
「……んだよなー」
まさか体験談だなんて思いもしない澄晴は、片手でPCを起動させながらもう片手で嫁にメッセージを送っている。
普通そうだよ。その反応になるんだよ。俺だって訳わかんねーし、自分で言っててもバカみてーな話としか思わない。
でも本当に、あれは嘘じゃなかったんだ。
誰か同じような経験した奴居ねーのかな。
「安藤…家来るか?飲みに出て遅くなるのは無理だけど、家で夕飯ご馳走するくらいなら今日でもいいってさ…」
「体調不良設定どこいってん」
まさか俺と仕事後まで一緒に居るのが嫌すぎて自分の嫁病気にした?え〜友達だと思ってたのは俺だけだった系?だったら何故ただの仕事仲間を自宅に呼べるん。お前の踏み込んで良いラインが未だにわからんよ、俺は。
「とりあえず、そう言う事だから。俺も頑張るし、なんとか定時に出られるように…一緒に頑張ろう…」
「おー」
午後からも、りゅうは変わらずフロア内を行き来していた。時折廊下ですれ違う事はあったが、互いに目を逸らして素通りするもんだから、その度胸は締め付けらるばかりだ。
今日のところは三島先輩に変な動きもなかったので、アイツも無事に帰れたと思う。
…暫くは、俺が気にしておいてやらねーと。
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