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4-澄晴
自宅の駐車場に到着すると、2台しか停められない筈のそこはすっからかんになっていた。
今の状態で来碧さんが出掛けるなんて事は無いし、恐らく別の場所に車を移動しておいてくれたのだろう。なんて気が効く人なんだ…。動けるくらいには、体調も安定しているようで安心した。
「へー…結構デカい所住んでるんだな」
「少し背伸びするくらいが、仕事頑張れてちょうど良いんだって」
「あ〜、お前の嫁らしいわ」
呑気に建物を見上げている安藤だが、昼間は相当やられていた。結局午後からも仕事に追われ、まともに会話も出来ないままここまで来てしまったから実際何が起きたのかは俺もまだ知らないままだ。
これでもし、しょうもない愚痴を聞かされるだけなら問答無用で締め出してやる。来碧さんだって多分、無理して多めに薬を飲んでいるだろうから。本当なら俺がそばに居て、薬が無くても乗り越えられるくらい安心させてあげたかったのに。
エレベーターを降り、そのまま鍵を回しても良かったが念の為インターホンを押す。
来碧さんの事だから、他人を家に上げるとなればそれなりに身なりにも気を遣うだろう。勝手に開けて寝巻きでしたなんて事があれば後で何があるかわからない。
とん、とんと足音が近づき、内側に気配を感じた。静かに取っ手が回され、そして。
「おかえり。…安藤さんも、お久しぶりですね。中へどうぞ」
普段通り、冷静で上品な来碧さんだ。
昨夜から部屋中に蔓延っていたフェロモンも今は随分と落ち着いており、改めて彼の凄さを思い知った瞬間である。
「ご飯、適当に作りましたけど苦手な物はありませんでしたか?」
「いや全然!むしろ毎日澄晴のすげー弁当見てたから、嫁さんの作るメシ食ってみたかったんで」
「はは。ありがとうございます」
…俺には苦手な物とか聞いてきた事無かったのに。しかもいつもよりちょっと豪華だ。
涼しい顔してる癖に、実は結構見栄っ張りだよな来碧さん。
俺の番としてそうしてくれている、と思うと…今すぐ抱き着いて鬱陶しがられるくらい感謝を述べたい。うん、今やったらはっ倒されるな。我慢しよう。
「…では、私は席を外しますのでどうぞごゆっくり──」
「待って、嫁さんにも居てほしい」
「…いいんですか?」
「Ωのアンタにも、聞きたい事があって…」
並べられた温かな夕飯からようやく目を離したかと思えば、安藤は来碧さんの腕を掴んで引き止めた。
その面持ちは、先程までのヘラついたそれとは違い、いつになく深刻そうで。
もしかしたら本当に、只事じゃ無いのかもしれない。
来碧さんは俺と視線を交わらせた後、静かにその場へ腰を下ろした。
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