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4-澄晴

沈黙が部屋を包み、温かな空間が静かに冷える。誰もが言葉を失う中、最初に声をあげたのは安藤だった。 「運命ってそんな…伝説みたいな話だろ?そう簡単に起きるかって……はは」 俺もそう思っていた。おそらく俺にも、この世のどこかに運命で繋がれているであろう存在が居る。出会えないと諦めていた。出会う可能性など微塵もないと未だに思っている。 それでも、ちゃんと運命の番はいるんだって 身をもって証明した人が、ここには居るんだ。 「伝説みたいな話でも、運命の相手は確かにいますよ」 来碧さんの口調は極めて冷静だ。しかし、その瞳の奥で揺らぐのは恐怖であったり、痛みであったり、俺なんかでは到底図り知れない苦しみ達だ。 どうしてこんな辛い事を言わせてしまったんだろう。思い出したくない記憶を呼び起こすような事を言わせてしまい、胸が軋む。 「…あんたと澄晴は運命の番って事?」 勿論何も知りやしない安藤は、ズケズケと来碧さんの傷を抉った。 こういう時、なんて言って止めればいいのかわからない。どんな風にはぐらかせば安藤が納得してくれるか、俺にはわからない。 うまく切り抜けられる言葉が見つからない。 来碧さんを守りたいのに、これくらいの話題すら上手にかわしてあげられないんだな。…なんてダメな奴なんだろう。 「もういいだろ安藤。俺たちは別に運命ってわけじゃないよ。でも運命の相手は居る。 …それがわかったら今日は帰ってくれ」 「えーー?ばるすー冷てー!」 「変なあだ名辞めてくれ」 冷たい、か。その通りだ。 俺は来碧さんと違って丁寧な言葉遣いも優しい言い方も出来ない。人間関係においては特に、器用じゃないんだ。 だから、一歩間違えれば安藤という大事な友人すらも失いかねない態度でしか来碧さんを庇えない。 明日からまた一人に戻っても、仕方ないな。 「ふーん…ま、いーや。 えーと、来碧ちゃん?めっちゃ美味かったです。また来ていい?」 「ちゃん……?え、えぇ…いつでもいらしてください」 が、安藤は案外スッキリした顔で席を立ったのだった。 「怒らないのか…?」 なんて思わず聞いてしまうほど、険しい顔をする事も無く当たり前のように次の約束をこじつけたのだ。 俺じゃなく、来碧さんの方に。ちゃんとか言いやがって、こっちは未だにさん付けだっつうの。 「そりゃお前らにも色々あんだろ。運命だって言われりゃそうかって思えたし、モヤってたのが消えたわ。澄晴マジさんきゅーな!」 「……なら…よかった」 突然の来客を玄関まで送る来碧さんは、やはりよく出来たお嫁さんである。 だが、彼の右手にはある物が握られていた。 「あの、安藤さん。これを」 「ん?何これ」 それは俺と番う以前に彼が服用していた抑制剤だった。 「Ωの子、もしあなたの前でまた衝動を起こしたらすぐに飲ませて下さい。少し副作用がありますが、強力で即効性もあるので」 「…わかった。ありがとな、助かるよ」 そういうと、安藤は手を振って扉を閉める。 再び静けさを取り戻したそこで、後ろからそっと来碧さんを抱きしめた。

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