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5-山田
とんでもない目に遭いかけたあれから数日が経った。週末は安定の寝たり起きたりのダラダラ生活を過ごし、迎えた月曜日。
最上階へ足を踏み入れるのは緊張したが、ゴミ島は安藤のお陰か大人しくしているようで一安心だ。
特に誰かに変な目で見られる事もなく、寄ってくる虫ケラも居ない。
今日の俺は、昨晩パパから言われた通り、小さなペンダントに抑制剤を仕込んで首からぶら下げている。勿論普段は作業着の中にしまってあるので不審がられる心配もない。
…やっぱ、Ωの先輩は違うな。薬をαの目の前で落っことした話は流石に出来なかったけど、落とさない方法を聞いたらすぐに何個もアドバイスしてくれるんだ。
優しくて可愛くて賢くて、俺の自慢のパパ。
と、エレベーターから人影が向かってくるのが見えた。一人は見た事もねぇ奴だけど、もう一人は安藤だ。
あのハンカチ…ちゃんと洗濯して、畳んで袋に入れたんだ。っつっても、洗濯機を回したのはパパだし干したのもパパ。俺は畳んで袋に詰めただけなんだけど…まぁそれはいいや。
「おい、ハンカ──」
「安藤電話来てんだけど出れるか?」
「おー、行く行く」
だが、後ろにいた癖に声ばっかりでけぇクソモブαに俺の声は掻き消され、安藤はこちらに見向きもしないで走っていった。
なんだよ。せめて目くらい合わせてくれたっていいだろうが。
その後も、何度か安藤を見つけては声をかけようとしたものの、うまくタイミングが合わず捕まえられず終いだった。
ハンカチ一つで振り回されるのも悔しいし、この俺が安藤を追いかけ回しているのもめちゃくちゃ悔しい。あんなウザい奴の為に、いちいち緊張してんのなんなんだよ。
あっちから声を掛けてくるだろうと待っていても、そんな素振りすら見せない。
避けられてんじゃないかって…疑うくらい、安藤はこちらを見てもくれない。
MS商事の昼休憩が終わる直前の事だ。
安藤はいつも通りカフェで購入したコーヒーを片手に戻って来た。今なら他に人も居ない。朝と違って休憩時間だ。
やっと、安藤と話す事が出来る…!
そう、思ったのがダメだったのかもしれない。
気づけば出勤してから何時間も、俺の頭は安藤の事ばかりを考えていた。
そんな中で本人を目の当たりにしたら、そりゃ緊張もする。ドキドキする。最後に話したあの時の事も、思い出しちまう。
「安藤っ、あの…コレこの前借り……た、ぁ…」
どくん
と、心臓が信じられないほど大きく脈を打った。その途端、歩いていた安藤の姿がぐにゃりと歪み、壁も床も全部がグルグル回り出す。
おかしい、なんで。
またアレだ。
抑制剤、ちゃんと飲んだのに。さっきまで何とも無かったのに。安藤と目が合った瞬間、また俺は……。
「…くっそ、こっち来い早くッ」
「うぁ……」
俺の腕を掴んだ掌は汗で湿っていて、
それが悔しくてたまらなかった。
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