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5-山田
上手い、上手くないの前に俺はそんな事した試しが無い。何の躊躇いもなくベルトを緩められる安藤は、きっと今まで沢山そういう事をして来たって事だ。
フェ……とか、口に出すどころか言葉を頭に思い浮かべるだけで心臓が煩い俺とはまるで違う。
「…早くしろって。何見てんの」
「あ…っ、ぁ…えと…」
慣れた手つきで勃起したそこに避妊具を装着し、口を開いた安藤の態度はいつになく冷酷だった。
これが俗に言う“性処理”の道具にされるって事か…なんて、脳みその隅っこで考えながら彼の股へ顔を寄せる。
安藤のは、俺とは比べ物にならないくらい大きくて、色も…なんか違う。透明な薄いゴムだけでは脈打つ様も確認出来て、ひくんと喉が震えた。
「俺…どうしたらいいか、よくわかんねぇ……から、安藤が…動かして、頭……」
風に靡く邪魔な髪を耳にかけ、左手で根本に触れる。びっくりするほど熱いそこはひときわ大きく脈を打ち、さっきよりも角度を上げた。
「どうしたらって…んなの自分がされた時思い出せばいーだけだろ」
「………さ、された事…無いし、した事も………だから…っ、」
「…え」
ちらりと安藤の瞳を見上げれば、彼は心底驚いたみたいな表情でこちらを見つめる。
この歳でそういう経験無いって…変に思われんのかな。それとも安藤が慣れてるだけ?安藤の基準と俺がかけ離れすぎてる?
どっちにしろ、悔しいよ。
だってお前は今までも、こういう事させて来たって事だもんな。その中にはどんな奴がいたんだろう。
α、β?Ωもいたのかな。男かな、女かな。
俺と違って、そいつらは経験があって、ちゃんと安藤を喜ばせる事が出来たのかな。…俺、下手って思われんのかな。そしたらもう、安藤の中で俺の価値って何も無くなっちまうのかなぁ……。
あぁ…なんかすげぇ、苦しいな。
恥ずかしいのに、緊張するのに、そんなの全部どうでもいいって思うくらいに。
支えたところから先端へ向かい、そろそろと舌を滑らせた。ゴムの独特の臭いと、ぬるぬるした変な味が混じって口の中に入り込む。
後ろ側の筋に沿って、何度かその動きを繰り返した。だが、安藤のは大きさこそそのままだけど、感じてくれているような素振りは…正直、無い。
他は…どうしたらいいんだろう。
「……生じゃねーから舐められてもな」
「あ……ごめ、えと…どうしたらいい…?」
「咥えろよ。根元まで全部」
「……ん、んぐ…っう」
深い溜息の後、安藤は俺の頭を掴んで思い切り自らに押し付けた。
突如襲いくる苦しさにえずけば、反射的に喉が閉まる。気道が閉ざされ、息も出来ない拷問みたいな行為の中、ただ一つだけ…安藤がビクンと僅かに跳ねたその事実だけが、俺の苦しさに寄り添ってくれた気がした。
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