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6-安藤
エレベーターに向かう道のりで、最近やっと気にせず横切れるようになれた筈の作業着が目に入る。こんな事なら、澄晴に声なんてかけなけりゃよかった。
時折ふらつきながら清掃作業に励むりゅうに、つい手を差し伸べたくなってしまう。熱でもあるのだろうか。見てわかるほど身体は重そうで、明らかに元気が無い。季節の変わり目だもんな。そんな日もあるだろ。……そう思いたいのに、確実にその時が近づいているとわかるから、モヤモヤは募るばかりだ。
…あーもう。カフェまで行く気満々だったのに、この俺が自販機で缶コーヒーとか信じらんねー。
結局、俺はエレベーターまで行くことを諦め、彼から目を離す事も出来ず、フロア内に設置されている自販機に千円札を食わせたのだった。
「買ってきたよん」
「え……早いな。下まで行くのかと思ってた」
「あー…はは、まあ偶にはな」
澄晴リクエストのミルクティーは500のペットボトル。対して俺は、無糖のアイスコーヒーだ。小さい缶。澄晴のより30円安い。…別に気にする事でもないが。
「山田さん…見かけたか?」
「あーうん。ダルそうにフラついてたわ。もうアレ近いだろあいつ……。マジでアホにも程があるっていうかさー。何であんな状態で仕事来てんだよ。危機感ねーの」
喋り過ぎている自覚はあった。澄晴はりゅうの様子を聞いてきたんじゃなく、見たかどうかを聞いただけ。見たって一言言えばそれで済んだのに、いちいち文句をつけて、澄晴がミルクティー飲む間黙ってるからって時間いっぱい使って。
気にかけてない俺はどこ行ったんだよ。バカじゃねーのマジで。
「…誰もが簡単に仕事を休める訳じゃないんじゃないかな…。俺は、薬で抑えて無理して仕事に行って、その場で酷い目にあった人を…知ってるから」
「だから放っておけねーっての?」
「そうだな。…山田さんの性別を知っている人は、俺たちだけじゃないんだし」
蓋を閉めた澄晴は、後ろを振り返り一つの席をじっと見つめる。三島先輩が所属する生産管理課だ。今も数人が席を外しているようだが、どうせトイレにでも行っているか、そこらの女社員を捕まえて話し込んでいるのだろう。
「んなレイプ事件みてーな事そうそう起きるわけねーじゃん。考え過ぎだよお前の。
……俺はもうアイツとは関わらねーんだ」
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