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6-安藤
怪訝な顔で三分の一ほど減ったミルクティーに目を落とす澄晴は、小さく溜息を吐いてそれをデスクへ置いた。俺の心がまた揺れ始めている事に、おそらく澄晴は気付いている。普段は鈍臭い癖にこういう時だけ鋭いのがマジでめんどくせー。
自分の利益のためでなく、いつも人のためにこういう顔をする心優しい男だと知っているから、酷く胸が締め付けられる。
「……わかったよ。安藤がその気ならもういい。俺は一人でも、山田さんを守れるように──」
「おい!安藤、綾木、なんかやべぇぞ!」
その時、2人の会話を遮るようにこちらへ駆けてくる同僚が叫んだ。ハンカチで濡れた手を拭っているあたり、いかにも便所から戻ってきましたって雰囲気だ。
「どーしたんだよ慌てまくって。なんかあったん池田っち」
勘が鋭いのはなにも澄晴に限ったことじゃない。俺だって同じだった。
それ故に、今急速に脳内で作り上げられていく最悪のシナリオが外れてくれる事だけを祈り、努めてヘラついたいつも通りの俺を演じる。だが──。
「さっき俺トイレに居たらさ、清掃員が入ってきて、フラついてたから調子でもわりーのかなって見てたんだけど…なんか後ろから三島さんと他にも何人か入ってきて……そんで…っ、」
澄晴の目の色が変わった。俺の手の中にあった筈のコーヒー缶は、音を立ててデスクに転がって。
「ちょっと前までお前らが結構仲良くしてたじゃん?あの若いヤツだよ…アイツが入ってく個室に三島さん達まで強引に押し入って…」
そこまで聞いて、俺の足は遂に床を蹴り上げた。無意識だった。ただ、ただりゅうが危ない目に遭っていると分かった途端身体が勝手に動き出す。
これは運命の繋がり?それとも俺自身の気持ち?
俺の気持ちって、友情?恋愛?
知らねー。今考えたって仕方ない。ただお前を助けたい。酷い事をした。苦しめた。話しかける事すら許されないかもしれない。それでも俺は、りゅうの事が……っ。
背後に聞こえる澄晴の声に見向きもせず、オフィスを飛び出したのだった。
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