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6-澄晴
安藤達を追いかけようと此方へ向かってきたα達を何とか封じ込めて言葉を続けた。
「皆さんにも聞いてほしい事です」
きょとんとしているのは隣に居る池田だけではない。あちら側も不思議そうに俺の言葉に耳を傾けている。…三島も含めて。
「三島さん、あなたはこの会社の社長の息子だそうですね」
「…一部の人間しか知らない事をよく知っているね。その通りだよ」
周囲がざわつく。どうやら三島は自分の周りの人間にも教えていなかったようだ。だから彼の噂は“上部と何らかの繋がりがある”どまりだった。
「でも本当の息子ではないですよね」
これから話す事は、全て来碧さんが俺に教えてくれた事だ。彼の母親、そしてその恋人との接触により発覚した真実。
「あなたの本当の父親は社長の弟…。今は関西で飽きもせず複数のΩと恋愛ごっこをしているそうですよ」
「……よく調べたね。でも、だから何だと言うんだ?」
ここまで突っ込んでも勘は働かないか。…やはり確信した。俺や安藤とは脳みその作りが違うと。
腕を組み、今自分がどんな窮地に立たされているかも理解していない間抜けは自信ありげに笑っている。
「いいんですか?彼がまたΩを妊娠させ、今度こそ“成功する”かもしれませんよ。そうしたら三島さん、あなたはどうなるんでしょうね」
「…っ、お前どこまで知って…」
やっと俺の意図を察し始めたのだろう。しかし、もう無駄だ。
人を欺ける能力も無い人間が、来碧さんではなくお前が、今まで甘い蜜を吸ってのうのうと生きてきていた事が許せない。お前が笑っていた時も、来碧さんは一人で戦ってきたというのに。
それまで一つも行動を起こさなかった三島は、ずんずんと険しい顔で俺に近づくと、勢いに任せて胸ぐらを掴み上げた。
でも、これくらいの力なら正直振り解けてしまうし、本気を出した俺の番よりも劣っているかもしれない。
まったく恐怖を覚えないくらいには、この男が大きな嘘をついている事は明らかだったのだ。
「全て知っています。あなたがβだという事も」
「……っ、な、ちが…」
「違いませんよね。こんな俺にすら力で敵わない」
胸元を掴む拳を逆に捻り上げて見せれば、すぐに痛がり手を離す。
三島が動かなかった理由はこれだったのだ。俺のようなひょろ長いだけのαにも勝てない。だから本当は、山田さんと番う事なんて出来ない。自らの性別を周りに信じ込ませるために、山田さんを利用しようとした情けない男だったのだ。
「子供に恵まれなかった社長は、自身の弟がΩに産ませた男の子を引き取ったんですよね。通常、番から生まれる子供はαかΩが多いですから。
複数のΩ達の子のうち男の子はあなたを入れて二人。…一人は病弱でよく身体を壊していた。反対にあなたは健康だったので、おそらく社長はあなたがαだと信じて疑わなかったんでしょう」
その結果が、今の三島を作り上げた。
人一倍高いプライドを持ち、育ての父を見て学んだカリスマ性で多くの仕事仲間を操ると同時に、実の父の血を受け継いで多くの女性を弄び、苦しめた。
三島はその場に座り込み、黙り込む。
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