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7-山田
「ごめん、綾木…色々……ごめん」
「気にしないでください。副作用もあまり無かったようで安心しました」
「うん…」
綾木は仕事を早退してまで、俺を家に送ってくれた。と言ってもコイツは電車通勤なので、俺の車を運転してくれただけだ。ここからどうやって帰るのか聞いたら、逆に最寄駅への行き方を聞かれた。
折角似合いもしないスマートな事してくれたんだから、最後まで格好良くキメてくれりゃ良いもんを。微妙に抜けてんだよな。
玄関より中に入るつもりは無いらしく、靴を履いたままぺこりと下げられる頭。完全にいつも通りに戻った綾木は、やっぱり俺より弱そうだ。
「では僕はこれで…。また山田さんの元気な姿、見せてくださいね」
「わかった…あ、道迷いそうなら連絡しろよ。俺QR出すし」
「えぇ、本当ですか…助かります、すみません体調の優れない時にそんな…」
ま、来た事も無い場所に来させた俺のせいでもあるしな。普段あまり運転してないと言う割には、結構安全運転でそんなに悪く無かったし。
道案内くらいで今日の事全部チャラになるとは思ってないけどさ。
綾木のスマホに俺のQRコードを読み込ませ、送られてきたこれまた腰が低そうな頭下げてるスタンプに苦笑い。やっぱスタンプもこういうのばっか持ってんのかな。イキった寒い台詞のキャラクターボイス付きスタンプでもプレゼントしてやろうか。
なんて、呑気な事を考えていたその時だ。
俺のじゃないスマホから、バイブ音が響いた。ポケットに仕舞う寸前の、綾木の手の中で震える画面に映る文字は──。
「あ…んどう…?それ、もしかして…っ」
「え、あ、はい!そうみたいです…えっと……」
『安藤虎和』の表示は、俺の心拍を急激に早めた。下の名前……なんて読むんだろ、トラカズかな。強そう。
綾木は暫く考えたのち、ようやく通話ボタンをタップする。そして俺にも聞こえるよう、スピーカーに切り替えた。本人に何の許可もなくいいのかよって突っ込みたくても、既に繋がった状態じゃ口を塞ぐので精一杯だ。
「……大丈夫か?」
『あーうん。今家ついたとこよ』
「そうか」
電話越しに聞こえる安藤の声は穏やかで、ちょっとだけ安心した。
あの後、安藤も早退したというのは綾木から聞いていた。もちろん苦しかったのは俺だけじゃないし、逆に仕事を続けているなんて知ったら申し訳なくていてもたってもいられなかったと思う。落ち着いたみたいで、本当に良かった。
『あの、さ……来碧ちゃんの薬1個ダメにしちまった。いいやつなんだろアレ。ごめんな』
「あぁいや…仕方ないだろ。俺から話しておくから大丈夫だよ」
“ライアちゃん”ってのは綾木の番の事だろうか。それなら、安藤と綾木が同じΩ用抑制剤を持っていたのも納得がいく。多分安藤は、俺が運命の番だってわかった時にはこうなる事まで想定していたんだ。自分の身体なのに、全く理解してない俺とは違う。
嫌われていたんじゃなく、ただ俺を守ろうとしてくれていたんだって、今ならわかるよ。頭が良くて優しいお前は、一貫して俺を大事にしてくれていたんだって。
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