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7-安藤
──♪
通知音で目を覚ます。どうやらあのまま寝落ちていたらしい。
空を見れば既に薄暗くなっていて、窓から見える街灯は白く光っていた。
目を開き、殆ど無意識のうちにスマホへ手が伸びる俺は明らかな現代人。ただの薄い板と侮ってはいけない。コイツの依存性はマジですごい。
さっきの…メッセージの通知か。どこの姉ちゃんだよ今俺誰とも会う気ねーんだけど。
そう思い、表示された文字を見て飛び起きた。危うくベッドから転がり落ちる所だった。それくらい驚いたんだ。
『龍樹です
綾木に聞いた』
差出人は「りゅう」だった。俺が表示名をいじったんじゃなく、最初からこれだ。
俺はりゅうの仕事以外の姿を知らなくて、だから友達にそう呼ばれているだけなのかもしれない。俺以外にもりゅうの事をりゅうと呼ぶ人がいるだけかもしれないって確かに思うのに…。
俺が一発でりゅうだってわかるようにしてくれたのか、それとも…俺がそう呼んでいるから自分の意思で変えていたのかもしれないとか考え出して、勝手に盛り上がってる。
どこの童貞だよ。思考が完全に恋して花畑になっちゃってるアレだ。
なんて返したらいいだろう、なんて言ったらキモくなくウザくなく、それでいて冷たくもない絶妙なラインを攻める事が出来るだろう。
誰かへの返信にここまで悩む事なんて、仕事でやらかした時取引先に送る謝罪メール以来だっての。
“連絡くれて嬉しい”か、それとも“無事でよかった”か?違うな。どれもピンとこない。
……あーもうダメだ。いちいち考えてても返信を待っているであろうりゅうを不安にさせちまうだけだ。あからさまに避けていた期間は短くはなくて、だからきっと、りゅうもソワソワしてるだろうから。
早速ともだちに追加すると、受話器のマークに触れる。いちいち言葉を考えて悩むより、話す方が楽じゃ無いかと思ったんだ。
『…なに』
1コールも聞かずに出てくれたりゅうは、やはり俺の予想通り画面と睨めっこでもしていたんだろうと確信し、笑えてくる。
正直、可愛くて仕方ない。
「出るの早すぎんか」
『るせぇな。たまたまケータイ触ってただけだっつの』
「そういう事にしといてやんよ」
『…相変わらずうぜぇ奴』
ほら。悩むよりこっちの方がずっと良い。
相変わらずなのは俺に限った事じゃない。いつの間にか懐かしく思うようになっていたりゅうの毒舌に、こうでなくちゃなんて納得する自分がいる。
『あ、でもわりぃ俺今からご飯食う』
「おー」
『…あのさ、戻ったらまた……その、』
「いつでもかけて来いよ。めちゃくちゃ暇してっし俺」
意地っ張りでシャイなりゅうのあと一歩を、代わりに俺が踏み込んでやる。そうすれば、りゅうは少しだけ弾んだ声色で「うん」と答えてくれるから。
5分足らずの通話を終え、冷蔵庫から飲みかけのコーヒーを取り出した。
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