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7-安藤

再度りゅうから連絡があったのは、2時間が過ぎた頃だった。晩飯にそこまで時間がかかるのかは疑問だが、恐らく風呂であったり寝る支度を整えていたのだろうと思えばそれくらい普通だ。 こちらも色々と済ませられたのでちょうど良かった。 『電話していい?』に対し、俺からかけると打ち込んだその数秒後には、既読も確認しないまま通話ボタンに指が触れる。 『…っ、ん』 「やっぱ出るのはえーな」 『ぐすっ……るせえ』 りゅうの声は、さっきとは打って変わって酷く弱々しい。おまけに震えているし、鼻を啜る音なんかも度々聞こえてきて。 「何泣いてんの」 そう言わずには居られなかった。 理由を知ったところで、今の俺がりゅうにしてやれる事なんか一つもない。傍に居る事すら不可能だし、そもそも家も知らないし。 でも、電話越しでも言葉を贈る事は出来るから。慰め、励ましなんて慣れてないけど、ちょっとでも心が晴れてくれたら嬉しい。 『…パパに怒られた』 「パパて」 お前いくつだよって突っ込もうとした所でハッとした。今そこ言ったらその先に話が進まない。 『パパいつも優しいのに怒ると父さんより怖い。…ぜってぇ勝てない』 「あー…なるほどね。もしかして、りゅうの親って番だったりすんの」 『え?あ……そっか。そう、番。パパがΩで俺の母親にあたる。んで、父さんがα』 「そーりゃ怒られんだろ普通にwww」 そうか。世の母親が全員女なわけじゃねーよな。盲点だった。特に俺やりゅうみたいな“β以外”の子を持つ母親はΩである事が多い。 俺のように親の顔も知らない奴らが多い中、りゅうは両親の元で愛されて育ってきた訳だ。そりゃ危機感のねー生意気お姫様になるのもわかる。 『本当は朝から調子おかしくてさ、その…バレねぇように薬飲んでやり過ごしたんだけど……それ言ったら胸ぐら掴まれた。死ぬかと思った』 「それは…俺が親でも同じ事しそうだわ。職場が職場だしな」 『俺ちゃんと正直に話したのに…。嘘付くともっと怒られるって思って…』 「そんだけパパさんもお前の事心配してて、大事に思ってるって事だろうが。そこに関しては反省しろよな」 俺が……いや、池田っちが居なかったらどうなっていた事か。 澄晴と2人で俺をりゅうから引き剥がしてくれなかったら、あの時きっとりゅうの事をーー。 『し、仕方…ねぇだろ。全部テメェのせいだからな』 「え何で?そこは俺関係なくね??」 『テメェの……安藤の…顔、ちょっとでも多く……その…み、見たくて……』 …は? 待ってちょい待ってストップ。嘘だろ、何言ってんの何照れてんの。……マジ? 返答を見つけられない俺は、おもむろに枕を顔に押し付けて叫んだ。 「があ゛い゛う゛ぎんだお゛ぉぉぉぉ!!!」 『なんて?』 「っ、…セコすぎる言い分だっつったんだよ」 『ぜってぇ違う。文字数が合わん』 「うるせえええ」 可愛すぎんだろ。バカじゃねーの、今すぐ抱きしめたい。 避けてるのは俺だけだった…って事?あんな事したのに、まだ俺を見ていてくれたっていうのかよ。こんなん知ったらやべーだろ。…恋じゃん。俺完全にりゅうに恋してんじゃん。

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