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7-安藤
「山田さんから連絡はあったか?」
「ん?おー」
「ならよかったよ」
そんな短い会話を交えながら、通常通りの平和な時間を過ごした。時折震える胸ポケットに気を取られ、反応が遅れた電話は澄晴が対応してくれる。さっすが澄晴だ。持つべきものは気遣いの出来る親友…ってな。
日中、1時間は待たせない程度のやり取りを続けている限り、りゅうの体調はそこまでひどいわけでは無いように思える。しかし、声を聞いてはいないので実際は無理してくれているのかもしれない。
何にせよ文字も打てない程の重症ではないって事だ。ぱたりと連絡が途絶えるよりずっと安心してこっちも仕事に集中出来るしな。よかったよかった。
──そんな日が数日続いた。2日に一度くらいのペースで通話して、りゅうの夕飯の時間や俺の寝る時間が来るまでダラダラと繋ぎっぱなしでその日にあった出来事や面白かったテレビ番組を教え合う。
匂いに惑わされたりせず、出会った頃のような警戒心も無く接してくれるりゅうは意外と優しくて。
2つ下の弟が居ると聞いて納得した。今までは単に危なっかしい無防備な奴だと心配していたが、確かに普段の物言いは兄貴肌気質な面も存在する。…主に人に説教してくるあたり。
『やっと週末かよおお長かった。月曜日から仕事行く』
“メシでも行くか?日曜の夜とか”
『まじ?!待ってて今すぐパパに聞いてくる』
“おーw”
金曜の夜のやり取りである。
ようやくりゅうの居ない1週間が終わり、シャワーを浴びた直後の事だった。
もう随分症状は治まっているようで、薬さえ飲めば近所のコンビニくらいは問題なく行けるらしい。αの父親はかなり心配してくれるらしいが。
それからほんの10分足らずで再度通知音が耳を驚かせた。
『いーよって』
よっしゃ。りゅうが聞いたのがパパさんの方でマジで良かった。わかんねーけど、父親だったら99%の確率で拒否すると思う。多分ね。
だが、通知音はその一度では鳴り止まなかった。
『安藤の家までパパが送ってくれるって』
『パパが会ってみたいって』
えっ……。
はい。思考停止。
完全にびびってます、俺。
山田家が一体どのくらい仲が良いのか、何をどこまで話しているのかは分かりかねるが、りゅうの事だ。恐らく相当の情報を両親や弟に提供しているに違いない。
どうしよう…非常階段のアレまで話してたら……俺もしかして死……あ、そーいや前にりゅうが言ってたよな。怒った時本当に怖いのはパパさんの方だって…。
『安藤、既読無視やだ』
“おーすまんな!ちょっとびっくりしてただけだ
わかった!パパさん親切だな!住所な!送るな!!”
心の中で澄晴に祈った。月曜日以降、もし俺が居なかったら俺の担当してる所全部お前に託すぜ…。
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