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8-山田
「203…っと、ここか」
扉の前で立ち止まり、大きく深呼吸。予定外に重たい荷物を肩にかけていたので、ちょっとだけ疲れた。
この1週間まともに動いてすらなかったからな。明日からまた鍛え直さないと。
時間を確認するためスマホを開くと、安藤から一通のメッセージが届いていた。
『着く5分前くらいに連絡くれー』
………着いた3分後の連絡じゃ、意味無いだろうか。
パパの運転というのがかなり珍しく、おまけに安藤の家に向かっている緊張感がえげつなくてスマホなんか見る暇もなかった。
そりゃ、これから家に行くって言ってんだから連絡の一つや二つ来てもおかしくない…よな。ごめん安藤。
うーん。これ、一応連絡したほうがいいのか?でもなんて伝えんだよ。俺龍樹。今玄関の前に居るの…とか?いやそれじゃホラーだ。聞いた事あるぞ。
じゃあ…そのままインターホン押す?しかないよなぁ…。
自分の手じゃ無いみたいにプルプル震える指で、ドアの右側に取り付けられているベルを押した。
と、ついでにメッセージも送っておこう。と言っても「山田到着」つってポーズ決めてるナメた顔のスタンプ一つだけだ。
すると奥から物凄い勢いでドタドタかけて来る足音が聞こえた。どうやら随分と慌てさせてしまったらしい。
当たり前だ。だって家主は少なくともまだ5分の猶予はあると思っていたのだから。
ガチャンと鍵を開ける音がしたのと同時に爆速で扉が開く。相手が俺じゃなかったら…そうだな、例えば綾木だったら確実に角で頭打って救急搬送されてるぞ。
「え…っと」
「あ、あの……」
「………は、早かったな」
「う、ん…えと、気付かなくて……連絡」
「いや、全然…いーよ。おん」
やっべ気まずいッ!!!!
安藤に会えるのは確かに楽しみだった。まさかこういった形で安藤の家を知れるのも、安藤の私服姿が見られるのも新鮮で。
そんでもって謝ったりお礼言ったり、以前のような、それこそ電話した時みたいな空気感で普通に会話が出来ると思っていたのだが。
「と…とりあえず上がる、か?わり、あんま片せてない…」
「あ、ぅえ…じゃあ、うん。…お邪魔します…」
いざ顔を見てしまうと、散々迫った事とか好き好き攻撃しまくった事とか蘇るし…俺の事「好き」って言われたの思い出すし……色々、恥ずかしくてやばい。どんな会話したらいいのかわかんねぇ。
えーっと…とりあえず、一番最初に伝えなきゃいけない大事な事は……んーー。
靴を揃えながらぐるぐる頭をフル回転。その時、肩から大きな鞄がずり落ちた。靴箱に引っ掛かっていた黒い傘がゆらゆら揺れる。
「あの、俺今日この家泊まる!」
「おん。……………はい?」
多分、言葉のチョイス間違った。
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