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第21話

 その日から丸二日間、将星に抱き潰された。理月は精を吐き出し続け、理月の中心からはもう何も出る物はなかった。また、将星も何度も理月の中に精を注ぎ続けた。  将星の精液を奥に感じながら、何もせずこのまま放置すれば間違いなく将星の子供を宿すのだろうと、朦朧とする意識の中で理月は思い、意識を手放した。  唇の柔らかい感触を感じたと思うと、水が喉を通過していく感触で理月は目を覚ました。瞼が酷く重くて、しっかりと開かない。 「起きたか? 大丈夫か?」  目の前に、将星が心配そうな顔を浮かべていた。  大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれれば、大丈夫ではない。全身が筋肉痛のようにギシギシと痛む。だが、中からの熱は発散され、スッキリとしているのを感じる。  ヒート時は、セックスで精を吐き出せば通常より早くヒートは終わる。セックスの相手がいない場合は、性的欲求を悶々と抱えながら一週間は過ごさないとならない。  それが、将星と丸々二日間セックスをした事により精が吐き出され、完全ではないにしろ、ヒートが随分と抜けてきているのが分かる。  重たい瞼をなんとか開け、軋む体をゆっくり起こした。それを将星が補助するように、理月の背中に手を当て起こすのを手伝った。 「今、ピル飲ませたからな」  将星が手にしているミネラルウォーターのペットボトルが目に入り、それを奪い取ると一気に飲み干した。 「もっと飲むか?」  その言葉に理月は首を振る。 「シャワー浴びるか? 一応、体は軽く拭いといたけど」  そういえば、汗と精液でベタついて体が思いのほかサッパリとしている。手首までタトゥーを施した目の前の厳つい男が、かいがいしく世話を焼いてくれた事が妙に可笑しかった。だが、全身の赤い痕と噛み跡を見て思わず、将星を睨んだ。 「わりぃ……自分でも引いた……」  そう言って苦笑を浮かべている。  体を少し動かすと、尻からジワリと生暖かい液体が垂れてきた。その不快感に理月は思い切り顔を歪めた。  やはりシャワーを浴びよう、将星にそう言おうと口を開いた。 「シャワー……」  声が掠れていて一瞬、自分の声じゃないのかと思った。それを将星に知られたくなくて、それ以上の言葉を飲み込んだ。  ゆっくりとベッドから立ち上がり、一歩歩くと下半身に力が入らずよろけてしまった。 「大丈夫か?」  将星が焦ったように理月を支えるとその手を理月は払い除けた。 「いい……」  そう言って、理月はガクガクと笑ってしまっている膝で踏ん張りながら、風呂場に向かった。  お湯を出すと、真っ先に後ろに指を突っ込んだ。そこを押し広げれば、ドクドクと将星のものが溢れてくる。  (くそっ!)  そう内心で毒突くが、ゴムをいらないと言ったのは自分だ。そう思うと、羞恥が込み上げてくる。ヒートだったとはいえ、思い返せば色々と恥ずかしい事を言ってしまった気がする。  一度ならず二度も、将星を前にあんな酷い醜態を晒してしまった。ヒートだったとはいえ、そんな自分に腹立たしくイラつき、悔しいという思いが込み上げてくる。  今まで、運良く激しいヒートは起きなかった。だが、将星を前にすると、理性が飛び、オメガの本能が将星を求めてしまう。この衝動は決して抑える事ができない。  オメガなのだから仕方ない、そんな薄っぺらな言い訳では慰めにもならない。 『理月……好きだ、好きだ…………』  不意に将星の言葉を思い出す。繋がっている間、ずっとその言葉を耳にしていた。まるで理月の中にその思いを深く根付かせるように何度も何度も。  それを思い出し、その場にしゃがみ込んでしまった。  何より悔しいのは、体を繋げるとヒートが楽になる事を身に染みて知ってしまった事と、将星の言葉を嬉しいと思ってしまっている事だ。  怒りの矛先がなく、理月は浴室の壁を叩いた。  (そういや、あいつーー彼女いたんじゃないのか……?)  ふと、将星の部屋から顔を出した長い髪の綺麗な女性を思い出す。彼女がいるのに、自分とこんな事をしていいのか? 将星の性格上、浮気や二股などはしない人間だと思っていたのだが、違ったのだろうか? その事実に気付いた途端、罪悪感に苛まれる。  チッ! とひとつ舌打ちをして、浴室を出た。  下だけ履き部屋に戻ると、将星はベランダでタバコを吸っていた。 「将星」  呼ぶと将星はハッとしたように肩を揺らし、振り向いた。 「別に中で吸っていいぜ」  まだ少し声は掠れていたが、随分ましになったようだ。  理月は将星に背を向ける形で床に座ると、自分もタバコをバックから取り出すと火を点けた。  思いの外、心は穏やかなような気がする。先程までは、苛つきと悔しさとほんの少し嬉しい気持ちと、複雑に気持ちが入り乱れていた。だが、今は体がヒートから解放されたからなのか、その思いの方が強いようだった。  背後から将星が中に入ってくる気配がしたと思うと、徐に上を着せられた。 「上着てろ」  そう言ってTシャツを着せられた。 「つか、これ俺んじゃねえし」 「いいから、それ着てろ」  将星の顔がまともに見れず、視線をベッドに向ければグシャグシャのシーツが先程まで、将星とセックスをしていたの事を生々しく思い出す。  そして、ベッドヘッドに置かれた黒い紐状の物が目に入る。 「?」  理月は不思議に思いそれを手にすると、原型を留めていないボロボロのプロテクターだった。どうやら、将星が噛み千切ってしまったようだ。これではもう、使い物にならないだろう。理月は小さくため息を溢すと、それをゴミ箱に捨てた。 「それ、ダメにしちまって悪い。買って返す」 「別にいい……」  理月はテーブルに置かれていミネラルウォーターを手に取ると、一気に飲み干した。  将星の匂いがするTシャツに包まれ、落ち着かない。将星も、先程から何か言いたげな表情を浮かべている。  二人の間に沈黙が流れる。おそらく、将星から言葉を発するような気がした。 「理月……」  将星は緊張しているのか、少し掠れていた。それでも、将星は鋭い目を真っ直ぐに自分に向けた。 「今も、俺と番になる気はないか?」  その言葉に理月は目を見開く。 「つ、がい……?」  まさか番の話しになるとは思わず、理月は将星の言葉を脳内で反芻した。 「おまえを好きだって言ったの覚えてるか? あれは何も、あの場のだけのうわ言なんかじゃない。俺は……」  一度言葉を切ると、 「俺は……ずっとおまえを忘れなれなかった。あの日からずっと……ずっとおまえが好きだった」  眉根を下げ今にも泣きそうで、将星らしからぬ顔だと理月は思った。  理月は将星の言葉に声が出てこない。将星への気持ちは、自分でも分からないのだ。嫌いではないのは確かだ。ヒートに陥った時、他の人間など目もくれず、寧ろ将星を欲した。そういう意味では、少なからず将星を好きだと言えるかもしれない。だが、番となれば別だ。 「俺は……」  何とか声を絞り出すと、将星が自分の言葉に息を飲んだのが分かった。

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