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【SIDE:L】
理人さんの唇が、ギュンッとへの字にひん曲がった。
「いきなりなんの話だよ?」
「いい加減、俺のこと名前で呼んでくださいって言ってるんです!」
「だからいつも呼んでるだろ。『佐藤くん』って」
「木瀬さんのことは『航生』って呼んでるじゃないですか!」
「またそれかよ……」
カッチーン。
なんだよ、その言い方!
なんだよ、〝それ〟って!
理人さんにとっては、その程度のことだって言いたいのか!
「恋人なんだから当然の権利でしょ!?」
「権利を主張するなら、まずきちんと義務を果たせよ!」
「はあ!?」
「佐藤くんが『初めまして、佐藤です』って名乗ったのが、そもそもの始まりだろ!?」
「はあッ!?」
「あの時、佐藤くんが『佐藤英瑠です』って名乗ってれば、俺だって最初から『佐藤くん』じゃなくて、『英瑠くん』って呼べたんだよ! それなのに、佐藤くんが『佐藤です』って名乗るから、俺が『佐藤くん』としか呼べなくなったんじゃないか!」
「はっあああぁあァ〜!? なんですか、そのわけわかんなすぎる屁理屈! 確かに俺は名字で名乗りましたよ! でも義務を果たすべきって主張するなら、理人さんがそこで『佐藤なに君?』って聞くべきだったんじゃないですか!?」
「なんで俺の方が聞かなきゃならないんだよ! そもそも、先にそういう意味で俺に興味を持ったのは佐藤くんだろ!」
「でも、その後『そんなの関係ない。今は俺の方が佐藤くんのこと好きだから……』って言い続けてるのは理人さんじゃないですか!」
「そ、そんなこと言ってない!」
「言ってました! 〝第一次元カレ事変〟の時に!」
「うっわ、なんだそのダッサイ言い方! だいたい、木瀬さん木瀬さん木瀬さん木瀬しゃっ……木瀬さんってなあ! いつまでも航生のこと気にしすぎなんだよ!」
「あ、噛んだ! 今噛んだでしょ! 木瀬しゃんって言った!」
「だ、だったらなんだよ! 佐藤くんだって俺がハジメテじゃないくせに! 高校生だったくせに色気付いて、ユカちゃん相手にあっさり童貞捨てやがったくせに!」
「ユカちゃんじゃないですぅ〜、百合ちゃんですぅ〜!」
「どっちでも一緒だろ! だいたい、俺の過去なのに佐藤くんが引きずってんなよな! バアアアアァァー……ッカ!」
この日の俺たちは、ちょっと虫の居所が悪かった。
それだけなんだ。
いや、本当に。
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