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【SIDE:M】

 翌朝目覚めると、佐藤くんの姿はなかった。  ガバッと起き上がって、ダダダっと走って、冷蔵庫の前で急停止し、勢いよく扉を開ける。  クワッと目を見開いて中身を確認すると、昨日と何も変わっていないことに気づいた。 「……やっぱり」  いつもの土曜日なら、仕事に行く前に俺のご飯を作り置きしておいてくれるのに。  佐藤くんの手料理があるから、俺は佐藤くんがいなくても、寂しくても、我慢できるのに。  行ってきますのチューもなしに出勤するなんて、 「最悪だ……!」  でも、佐藤くんは悪くない。  悪いのは、俺だ。  怒って当然だ。  だって、言ってしまったんだ。  バカ、って。  バアアアァァーーーカ、って。  思いっきり溜めた『バカ』を、思いっきりぶつけてしまった……!  そんなつもりはなかった。  完全に、売り言葉に買い言葉だった。  それだけだ。  だから、ちゃんと謝りたかった。  それなのに、 「佐藤くんがお風呂に入ってる間に寝てしまうなんて……!」  俺はフラフラする身体を引きずりながら寝室に戻り、そのままベチョッとベッドに倒れ込んだ。  すると、身体の右半分だけが中途半端に生ぬるくなる。  昨夜、佐藤くんはベッドで寝てくれなかった。  きっと、俺が先に眠ってしまっていたから、気を遣ってソファで寝たんだと思う……けど、もしも、違う理由だったら?  もう俺の顔なんて見たくなくて、身体が触れ合うなんてもってのほかで、同じ空気を吸うのも避けたいくらい、俺のことが嫌になったんだとしたら?  そんなはずはない。  そう言い聞かせてみても、不安は消えるどころか、どんどん増殖していく。  温もりのないシーツが、乾いていた涙腺をひたひたと満たしてくる。 「英瑠ぅ……」    答えてくれる笑顔はどこにもない。  なんだよ。  名前で呼んで欲しかったんじゃないのかよ。  ーー木瀬さんのことは、名前で呼んでるじゃないですか!  佐藤くんは、分かっていない。  佐藤くんが望むなら、俺は今すぐ航生と縁を切る。  佐藤くんを失うくらいなら、俺は佐藤くん以外の全てを捨てる。  だって、愛してるんだ。

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