4 / 11
【SIDE:M】
翌朝目覚めると、佐藤くんの姿はなかった。
ガバッと起き上がって、ダダダっと走って、冷蔵庫の前で急停止し、勢いよく扉を開ける。
クワッと目を見開いて中身を確認すると、昨日と何も変わっていないことに気づいた。
「……やっぱり」
いつもの土曜日なら、仕事に行く前に俺のご飯を作り置きしておいてくれるのに。
佐藤くんの手料理があるから、俺は佐藤くんがいなくても、寂しくても、我慢できるのに。
行ってきますのチューもなしに出勤するなんて、
「最悪だ……!」
でも、佐藤くんは悪くない。
悪いのは、俺だ。
怒って当然だ。
だって、言ってしまったんだ。
バカ、って。
バアアアァァーーーカ、って。
思いっきり溜めた『バカ』を、思いっきりぶつけてしまった……!
そんなつもりはなかった。
完全に、売り言葉に買い言葉だった。
それだけだ。
だから、ちゃんと謝りたかった。
それなのに、
「佐藤くんがお風呂に入ってる間に寝てしまうなんて……!」
俺はフラフラする身体を引きずりながら寝室に戻り、そのままベチョッとベッドに倒れ込んだ。
すると、身体の右半分だけが中途半端に生ぬるくなる。
昨夜、佐藤くんはベッドで寝てくれなかった。
きっと、俺が先に眠ってしまっていたから、気を遣ってソファで寝たんだと思う……けど、もしも、違う理由だったら?
もう俺の顔なんて見たくなくて、身体が触れ合うなんてもってのほかで、同じ空気を吸うのも避けたいくらい、俺のことが嫌になったんだとしたら?
そんなはずはない。
そう言い聞かせてみても、不安は消えるどころか、どんどん増殖していく。
温もりのないシーツが、乾いていた涙腺をひたひたと満たしてくる。
「英瑠ぅ……」
答えてくれる笑顔はどこにもない。
なんだよ。
名前で呼んで欲しかったんじゃないのかよ。
ーー木瀬さんのことは、名前で呼んでるじゃないですか!
佐藤くんは、分かっていない。
佐藤くんが望むなら、俺は今すぐ航生と縁を切る。
佐藤くんを失うくらいなら、俺は佐藤くん以外の全てを捨てる。
だって、愛してるんだ。
ともだちにシェアしよう!