7 / 11

【SIDE:L *3】

 クローゼットの扉を開けると、スマホを握りしめた理人さんが体育座りしていた。  ぎゅうっと膝を抱え込んで、隙間に顔を突っ込んで、決して小さくない身体を限界まで縮こませている。 「理人さん?」  四角い塊が、ひくん……と揺れた。 「なにかわいいことしてるんですか」  だめだ。  つい、声が笑ってしまう。  俯いた頭と膝の間に紺色の布が抱え込まれているのを、俺は見逃さない。  昨夜俺が着ていた、理人さんと色違いのパジャマだ。 「洗濯物の中からパジャマ漁っちゃうくらい、俺の匂いが恋しくなった?」  理人さんの耳が、ぽぽぽぽ……と朱色に染まり、 「……帰って来るのが早いんだよ。今、戻すところだったのに」  くぐもった声が、俺をかわいく罵った。  嫉妬。  怒り。  不安。  心の中を埋め尽くしていた鋭く角張った感情が、ひとつ、またひとつと消えていく。  俺はゆっくりと膝を折り、縮こまったままの理人さんに目の高さを合わせた。 「ダッシュで帰ってきたんですよ。理人さんに早く会いたかったから」 「喧嘩、してるのに?」 「そんなの関係ないに決まってるでしょ」  手からスマホをもぎ取ると、ようやく理人さんが顔を上げた。   ほんのり桜色に縁取られたアーモンド・アイが素早く瞬き、ゆらゆらと彷徨った視線が、俺の上でぴたりと止まる。 「……英瑠」  掠れた声が、俺の名前を紡いだ。 「英瑠」 「……」 「英瑠」 「……」 「英瑠……っあ」  震える身体を力一杯抱きしめると、熱い吐息が俺の首筋を這い、指先が背中にきゅうっと食い込んでくる。 「バカって言ってごめん……っ」  ひんひんと喘いだ背中をよしよしし、俺は理人さんをさらに強く抱きしめた。 「俺も、ごめんなさい」

ともだちにシェアしよう!