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【SIDE:L】
今すぐ奥を突き上げて、思いきり喘がせ、乱してやりたい衝動を押し殺し、理人さんの中にゆっくりと自身を埋めていく。
交わりが深くなるにつれ、白い喉が仰け反り、背中に食い込む指先が鋭くなる。
やがて人肌と人肌が触れ合うと、理人さんがぎゅうっと閉じていた目蓋を押し上げたーー途端、ふたつのアーモンド・アイに、涙のヴェールがかかった。
「理人さん……?」
どこか痛くしてしまっただろうか。
慌てて腰を引こうとしても、巻きついた脚に強く引き止められる。
「嫌に……ならないで」
ほろり。
透明な粒が歪んだアーモンド・アイの淵を乗り越え、理人さんのこめかみを伝った。
「英瑠が望むなら、航生と……縁、切る。だから、俺のこと、嫌にならないで……っ」
ツンと痛んだ鼻の奥と一緒に溜まった目頭の熱を瞬きでごまかし、俺は、ぽろぽろと溢れ出てくる雫を親指で拭う。
「そんなこと、俺が望むわけないじゃないですか」
そんな残酷なことを、愛する人に求められるはずがない。
今の俺たちがいるのは、一生懸命に生きてきた過去があるからこそ。
そう、分かっているから。
「もしかして、ずっと泣くの我慢してた?」
理人さんはふるふると首を振ったけれど、待ってましたとばかりに次から次へと溢れ出てくる涙が、説得力を完全に無効化している。
木瀬さんと縁を切るーーそんなことを考えさせてしまうまで、追い詰めてしまったのか。
心臓の奥が、キュウっと痛んだ。
「ごめんなさい、理人さん」
「えっ……」
「ただのくだらない嫉妬です。だから、そんなに思い詰めないで」
「で、でもっ……」
「理人さんも、同じでしょ」
「えっ……」
「百合ちゃんの名前、わざと覚えないようにしてるじゃないですか」
記憶力の良い理人さんが、彼女の名前を覚えられないはずがない。
理人さんは、わざと興味のないフリをしているのだ。
正しい名前を口にしてしまったら最後、百合ちゃんは〝俺の元カノ〟という確かな存在になってしまう。
だから理人さんは、自分の脳を騙してまで、知らんぷりしている。
「ごめんっ……俺のも、ただの嫉妬だからっ……」
「うん、分かってる」
好きだから、全部自分のものにしたい。
現在や未来だけじゃない。
できることなら過去だって、独り占めしたい。
でも無理だって分かっているから、醜い感情を抱いてしまう。
嫉妬や怒りに形を変えるそれに負けそうになることもあるけれど、
乗り越えさせてくれるのは、
いつだって、
「英瑠、好き」
「理人さん……」
「今日も明日も、俺は、ずっと英瑠が大好きだ」
大切な人からの、まっすぐな言葉。
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