馬車は様々な種類の植物が咲き誇る庭園を横切り、正面玄関の前にとまった。 　馬車から降りてもローエンはリオを片時も離そうとせず、しっかりと腕の中にリオを収めて抱いている。 　 「ロ、ローエン……、そ、そろそろ……、は、はなして……」 「また手違いで腕の中からいなくなったら、私の心が張り裂けてしまう。戻ってくると信じて、ひどい目に合わせてしまったんだ。二階の寝室まで運ばせてもらうよ」 　さすがに馬車の中でいなくなるなんてことはないだろう。 　それなのに己の失態を嘆いているのか、なにを言ってもリオを床に下ろそうとしない。 　リオもリオで、憂いのある片目に見つめ返されるとなにも言えなくなった。 　ひさしぶりの再会だが、ローエンにとっては十年ぶり。しょうがないかなと思いつつ、おとなしくしながら屋敷へと戻った。 　ちなみに馬車の中で、リオを売春宿に送り戻した使用人を辞めさせておくと伝えられた。剣をふるいそうになったと聞いて、勤めたばかりの従僕に同情してしまい、それだけはやめてほしいと約束した。 　憤るローエンをたしなめるのに一苦労だったし、愛おしげになんどもなんども見つめてはキスをされて息するのすら大変だった。 　豪奢な両開きの玄関扉が開かれると、使用人たち一堂が待ち構えていた。その真ん中にエドウィンの顔もあった。エドウィンはリオを見るなり、深々と頭を下げて部下の失態を詫び、リオは無事だったのでそれほど気にする必要はないと伝えると、さらに謝って、ハンカチをだして涙をだした。 　使用人たちもびっくりするほどの号泣ぶりに、ローエンの胸を小突いて、なんとかフォローを頼んだ。 　そして、やっとのことで二階にあるローエンの寝室についたときにはかれこれ半日たっていた。 　ローエンの腕の中から離れ、長椅子に繊細なガラス細工のようにそっと置かれる。 「リオ、やっと二人っきりになれた。会いたかった」 　ぎゅうっと持ち上げられるように抱きしめられた。く、苦しい……と漏らすと、ローエンははっとして渋々だが腕をほどく。そして胸ポケットから指輪をだして、リオにみせた。 「この指輪、きみのだよね？」 　 　リングがキラリと光って、まばゆい白い光を放っている。 　それは淡い光を放ち、貝が人魚の涙を飲み込んでつくられた魔法石だ。愛する人から授けられると、願いが叶うといわれて、ずっと会いたいと願いを込めてきた。 「リオ、ちがう？」 　これは自分のものだ。ローエンはなにもしゃべらないリオの手をとり、薬指に指輪をはめた。かぎ爪に埋め込まれた魔法石が華やかな色彩を放って一段ときらびやかに輝いた。 「……うん、やっぱりこれはきみのだ」 　指の上でキラキラと輝く指輪を呆然と眺めながら、その言葉でリオの糸目に大粒の涙があふれた。 「あ、あ……あの……」 「この指輪には特別な呪文がかけられているんだ。指輪が認めないもの、主ではないものが身につけると、指が朽ちてしまう。……だから、これはきみので間違いない。まえにこの世界にいた神の子だ」 　あ……と思ったとき、ローエンがほほ笑みを自分にむけた。同時に、柔らかな唇がかぶさった。 　糸を引いた目から、ほろりと涙があふれ、キスが深くなるたびに大粒の涙となって頬を伝い落ちた。 「そ、そう……、そう、そうなんだ」 　自分の名前を口にできないので、こくこくとなんどもうなずいた。 「もっと早く話していればよかった。夜になると、どうも理性が働かなくなるんだ。きみの自慰を見ているときまでは記憶があったんだが……、わるかった。ごめん」 　ローエンは申し訳なさそうに頭を下げた。 「じ、じゃあ、あれは……」 「すまない、きみがあまりにもかわいくて、つい……」 　自慰を見たいと言い出す男の気持ちが理解できない。そう文句を言うと、もう二度とあんなことはしないとまた謝られた。 　同時に息がつまるほど抱きしめられ、ローエンと長い抱擁を交わした。一度くっついてしまうと、どちらも身体を離すことができなかった。 「会いたかった」 　それからリオはぽつぽつとしゃべった。 　ローエンが穢れに侵されていること、現代にもどって一人で暮らしたこと。 　マーリンに呼び戻されて、名前を対価に男娼として、顔と身体を変えられたこと。それからこの屋敷にきたことを話した。 「あ、あの……、穢れは……」 　その言葉を口にだして、やっと意識が本題に戻ったような気がした。ぴったりと身体を寄せた身体がわずかに離れた。どこか言いにくそうそうにして、正面をむいて漏れてくる陽光に目をやって、リオの顔を見ない。 　ぐっとこぶしを固めて、ローエンはリオのほうをむいて、左目を覆っていた眼帯を外した。 「……こ、これは」 　あらわになった左目に思わず息を呑んでしまう。 「これが穢れだ。まるで蛇の鱗のように硬く、義眼を入れているが皮膚がひび割れているだろう。これでもきみのおかげで肌も前のように近づいた気がするよ」 　目が閉じられた部分は鱗のようにびっしりと覆われて、どす黒くなって禍々しさを増していた。 「ローエン、おれのせいだ。……ごめん、本当にごめん……」 「きみを元の世界に戻したことを、私はまったく後悔はしていない。逆にあのとき、きみを守れたことを光栄に思っている」 　にこりとほほ笑まれ、うれしさを滲ませたため息がローエンの唇からでた。 　ちなみにリオはローエンに穢れのために売春宿から男娼を買っていたことが本当かどうかも聞いた。ローエンの顔が曇り、離れていても決して忘れていなかったことを話したが、不義を働いてすまないと、リオに深く詫びた。　 「舞い上がって、再会を喜んでしまって申し訳ない。私はきみ以外のものをなんども抱いていた。卑しく侮蔑すべき行為であり、きみが嫌ならば……」 　別れていてもいい……、そうローエンに言われそうになって、リオはあわててその言葉を遮った。 「ロ、ローエン……。いいんだ。やむを得ない事情だったし、俺はいつだってローエンのことを愛している。だからそんなことを言わないでほしい」 　お互い離れていたといっても、ローエンにとってみれば十年という時間を一人で過ごしていたのだ。本来ならば新しい妻を娶って、嫡子をもうけていても問題ない。 　それなのに闇の呪いをかけられて、激しい欲望に襲われ、他のものを抱き続けてきたのだ。死ぬと魔物になると言われれば、この忠誠心のある騎士が逆らえるはずがない。 「……ん。ローエン、愛している」 「もちろん、私もだ。きみが無事で本当によかった」 　ローエンに頭を撫でられ、また抱きしめられた。リオはローエンの胸の中にすっぽりとはまり、もごもごとローエンの香りに包まれてしまう。 「そ、そんなに気を病まないでよ……」 「この屋敷で私と執事のエドウィンだけがきみの事情を知っているんだ。それも、昨夜にマーリン卿から使い魔を受けとって、きみが戻ってきたと知らされたんだ。まさか男娼という身分であらわれるなんて考えもしなかったよ。朝になってから話そうとすれば、きみは腕の中から忽然といなくなってしまうし、もう気が気がじゃなかった……」 「ご、ごめん……」 「いいんだ。私はきみとまた会えただけで満足している。神から祝福を受けたと感謝しているくらいだ」 「そ、そんな…‥‥」 　大げさなのではと感じたが、ローエンは流麗な眉をよせて、息がつまるほどリオを抱きしめる。その力で、本気で愛していることがすぐに伝わってくる。 　あっ……と思って、なんとなしにリオは疑問を口にした。 「お、お風呂のソープの香りが変わってたのは……？」 「あれは、きみの香りを纏って抱いてしまうのが怖かった。あの香りははきみだけのものと決めている」 　鷲のような顔をきらりと輝かせ、まるでプロボーズのようなセリフを口にする。その言葉に身体中が熱くなり、リオの耳たぶまで赤くなった。 「あ、ありがとう……」 　ローエンに長椅子に押し倒され、切れ長の瞳は理知的ながらも冴えて、見つめ合うと蕩けるように甘く映った。 　吸い寄せられるように唇が重ね、角度を変えてなんども味わっていると、ピタッとローエンの動きが止まった。どうしたんだろうと思って見上げると、気難しげな表情でリオを見つめている。 「……そういえば、あの淫紋はどういうことなんだい？」 「え……」 　淫紋というパワーワードに現実に戻された。 　ローエンと再会して、思いが通じ合ったのですべてハッピーエンドになったと勝手に勘違いしていた自分がいた。 「ほら、ここにあるやつだ。まるでサキュバスみたいだ」 　リオの上着をたくし上げて、刻まれた紋様を食い入るように見つめられる。 　顔が熱くなるのを感じながらも、リオはちょっとだけ身体を離して密着を解いた。ローエンはリオが離れるのを厭って、距離をつめたので、吐息が耳たぶをくすぐってこそばゆい。 「こ、こここの淫紋は、ふ、ふれると、その……。えっと感じやすくなって……その……」 　中だししないとだめだ、というセリフが浮かぶが、出してもらう相手に伝えるのをどうしても憚れる。でもちゃんと言わなければと、決心し、リオの顔は真っ赤になった。 「な、な、ななな、なかにださないとだめなんだ」 　自分の口にだした言葉に、消えたくなった。口にしなければよかったと思ったが、このへんなマークのせいで命の危険があると伝えた。 「つまりどういうことなんだい？」 「毎晩、な、な、なかに精液をいれないと、ダメで。そ、そうしないと死ぬらしい……」 　しまった言い間違えた。 　間違えて、毎晩と言ってしまった。 　正確には肌に触れて感じてしまうと、最後までいたさないとダメなんだということを伝えたかった。が、それよりもリオの羞恥心のほうが勝った。なんてことを口にしてしまったんだと顔から火がでそうになる。 「そんなバカなことあるわけがないだろう」 「こ、これ……」 　ローエンの逞しい筋肉隆々の腕をつかんで、リオはすでに硬くなった自分の股関にあてた。布越しに男の象徴が猛っているのがわかって、さすがのローエンも驚いた。リオのそばかすが、カアッとさらに赤くなる。 　ローエンはなにも言わず、リオを抱き上げて、寝室にむかった。ベッドまで運んで、ゆっくりと着地するよう身体を置く。そのまま身体を覆うようにのしかかり、顎をつかまれて唇を重ねてきた。 「いまも、中に出さないとまずいのか？」 　緑の右目に蕩けるように見つめられると、逆らえるはずがない。リオはこくりと浅くうなずいた。ローエンの身体の重みを感じ、シャツの釦が外されていく。 「あっ……ん」 　胸をついばまれて、ぴょこっと顔をだした突起を食まれた。舌先で転がされて、つよく吸われると弱い。 「……ッ……んっ、んっ」 　太ももをなでられ、肩を嚙まれた。まだ昼間だというのに、淫靡な音に身体が火照った。 　尻の穴に指が触れると、すでにヌルヌルと濡れている。ずっと太くて長い指が入った。 　ぐりぐりと奥へ奥へと這入ってくる。以前の強引さはなくなり、ゆっくりと解きほぐしてくれている気がする。 「んぁっ、……あ、あう」 　キスをしながら、尻の穴をいじられているので、うまく舌を絡められない。涎が垂れて、だらしない顔になっている。リオに与えられる快感はどんどんと膨れあがり、身体を絡めとっていく。 「もう上も下も濡れているね」 　くっと笑われて、カアッーと身体が熱くなった。ローエンのものよりも頼りない先っぽはだらだらと透明な汁が垂れており、尻からは体液がヌルヌルと濡れている。 「……あ……ッ」 　ぴゅくと液体があふれて、ぴゅっぴゅっと腹に精液がこぼれた。スッキリしたはずなのに、痺れたように腰がひくつく。はやく、入れてほしい。そして注いで欲しいと願っている自分がいた。 　ローエンがうなじにキスをして、腰を押し当ててきた。ゆるんだそこはぬるついて、きばったものを吞み込んでしまう。 「あ、あ、あ、ああ……」 　溶けそうになるリオの両腕をつかんで、ローエンは腰を深くおしすすめた。根本まで一気に突き刺される感覚がして、背中がのけ反る。 「リオ、ここ、きもちいい？」 　こくこくと必死でうなずいて答えた。太くて硬いものが中を貫いて、ローエンを受け入れているこの瞬間が愛しい。 　筋張った手が自分の指に絡まり、なんども絶頂に達しながらも、ローエンのものは抜かれずに幾度も穿ってきた。大量の精液を中にだされて、やっと熱が静まったときにはリオはなにも考えられずにいた。 「あっ、はあっ、……いっ、いくっ……」 　まえよりも激しく、貪られている。それでいてやさしい。激しく求めれ、それは部屋が橙色に染まるまで続いた。 　リオはローエンの首に手を回して、ローエンはリオの背中を支えて、二人は十年ぶりの再会のキスを交わしながら愛の隙間をうめた。