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第14話

 燦燦と輝く朝日の中、リオは違和感で目が覚めた。  昨夜も自分からも動くようにがんばってみたが、さすがに疲労困憊で意識を手放してしまった。 まだ、なにかはいっている。パチパチと瞼を開くと、すでに温かな陽光が窓いっぱいに差している。けだるい腰を動かし、起き上がろうとすると、腰をつかまれた。  とたん、中に入っていたものが膨らみ、硬さを増している。背中にあたたかな体温を感じ、後ろにまだローエンがいることに気づいた。 「……」  リオはもぞもぞと身体をくねらせて、尻を離そうとするが、つながりは解けないまま、さらに奥にはいっていく。 「……んッ」  じわっと汗が肌に浮かび、ピリッとしたあまい痺れが走った。でっぱったところが引っかかって、なにかがぐちゅぐちゅと押し込められる。リオが動くと、尻の中を押しひろげ、ぎちぎちと大きくなっていく。 「……あ、……ッ……だめ」  快感に飲まれそうになって、リオはぐいぐいと逃れるように前へ動いた。すると腰に巻かれた腕が許さない。リオを下に押し込め、離すまいと足も絡めてきた。 「……あッ」  最奥までものが入り、リオはあっけなく果てた。昨晩に出しきったので、わずかな白濁液が飛び出て、びくびくと痙攣する身体は力が抜けてしまう。筋骨隆々の腕の中にもたれるが、その手の先はリオのものをつかんでしごきはじめた。 「……や、や、む、むり」 「いやじゃないはずだ、リオ」  肩を噛まれ、あまい痛みにリオは小さくうめいた。連続で与えられる快感すら受け入れてしまう。思考が溶けてまともに考えられなくなって、昨夜さんざんしたのに、休むひまもなく求めてしまう。  昨日のローエンはいつもとちがって、怒ったように身体を貪り、シルシをつけてくる。 「……そういう……ッ、あっ」  首筋をつよく吸われて、深くつながるとなにもいえなくなった。ローエンの唇がかぶさる。リオは熱いキスに翻弄され、考えるのをやめた。 「……んん」  口の中をまさぐらせ、歯列を舐められ、リオは夢中で舌を重ねた。  むかい合うように体勢をかえて、ローエンの大きな背中に抱きついた。汗をかいて、ローエンも反応を返してくれている。  ローエンの肩に爪を立て、奥深くを穿たれながらなんども達した。 「……あ、あ、あ、あああっ」  ビクンビクンと全身が痙攣して、リオはローエンに抱きしめられた。腹の腹の中で噴き出す熱にも感じてしまい、リオは考えることもできなかった。  寝ぼけながら、頬をすりよせると、壁は温かい。ふわっとしたやわらかな感触まであり、それがローエンだと知るまで時間がかかった。 「リオ、起きたか?」 「う、……うん。お、お、おはよう」  むっつりとした表情でローエンの瞼がひらいた。不機嫌そうな、怒ったような様子にリオは身体を離す。 「朝食は食べるか?」 「た、食べます……」  怖くて、どうしてか理由もなく敬語が飛び出してしまう。  それも気に入らないのか、ローエンはむすっと身体を起こし、ベッドから出た。リオもそれに続こうとしたが、身体がぐらりと揺れて、前のめりに倒れそうになった。 「……わッ」  すぐに太くて逞しい腕が伸びて、リオの身体を抱きとめた。ローエンはリオをベッドに戻して、横にさせ、毛布をかけ直してやった。 「風邪を引いたんだ。今日はゆっくり寝ていたほうがいい」  どうしてか身体が熱くて、だるい。額に手をあてられ、ひんやりとした冷たさが心地よい。 「あ、ありがとう」 「なにかあったら、エドウィンに頼むといい。それと……」    ローエンの言葉が途切れた。なにか言いたそうにして、リオを見ている。 「それと……?」  やっぱりよくなかったのだと反省した。身体を起こして、リオは頭を下げようとしたが、ローエンは首を横にふる。 「心配した」  ぎゅっと抱きしめられて、その態度の変わりようにびっくりした。勝手に出ていったので、怒っていたとばかり思っていた。 「殿下に襲われたのかと思った。リオ、外出するときは必ずエドウィンにひと言残してから出て行って欲しい」 「……うん」  ローエンは基地で自分とマベール王子を見つけて心底驚いたらしい。  絶対にあるわけがないと言ったのに、あの人は珍しいものには必ず手にいれる癖があるから、マベール王子はこの屋敷に立ち入らないようにしておくと意気込むのでさすがにそれだけは王室に角が立つのでやめるようになだめた。 「眠り魔法もかけた。じきに眠くなるよ」  ローエンは名残惜しそうに、リオから手を離し、そう言って部屋を出ていった。    ……こ、こわかった。  なんというか、威圧感がすごかった。このままこの部屋に閉じ込められるんじゃないかと思うぐらい、激しかったせいもある。  疲れていたのか、瞼が重くなってきた。すべてはローエンのため。自分を犠牲にして、この世界から戻してくれた。  これ以上なにを求めるっていうんだろう……。  うとうととまどろみながら、リオはぼんやりとそう思った。  そして夢をみた。ローエンが笑っていた。十年前の記憶なのか、ぼんやりと覚えている。 『そういえば図書館でなんの本を読んでいるの?』  最近いつも図書館から戻るローエンが気になり、つい疑問が口をでた。夜半過ぎに戻ってくるので、てっきり軍務かと思いきや、図書館にも寄っていると聞いてびっくりしたからだ。 『神学の間だよ。あそこには貴重な書がたくさんあって、闇魔法の文献がそろっている。王族から特別な許可証もいただいて調べているんだ』  大変そうだなと思ったが、どうやらむやみに立ち入ることができないらしく、許可証を手に入れるのも大変だったらしい。ローエンはリオの四肢にからみつくようにあまえてきて、唇をのせてきた。 『ローエン、そこにキスするなよ』 『べつにいいだろう。恥ずかしがることじゃない』  がぶりと太ももを甘嚙みされて、かるくうめいた。堂々と言い切られるが、そんな場所にキスの痕を残されるのは恥ずかしいことだ。痛くはないが、脚を大きく開いて、あらぬところに顔を埋められて平気なわけがない。  ローエンはユーヒの太ももをきつく吸って、いくつも濃い鬱血痕をつけた。痕がくっきりと浮かぶたびに顔が熱く感じた。 『私は嫉妬ぶかいんだ』 『……うん、そう思う』  あまりにもあちこちにキスマークをつけすぎるので、あきれながらそう返した。引き締まった身体が覆い被さって、深く唇を吸われた。 『ユーヒ、きみだけ愛している。ずっと、それだけは変わらない』  重なり合った手から温もりが伝わり、瞼を閉じてキスを味わった。そうだった、ローエンは昔からヤキモチ焼きだった。いまもそれは変わらない。  ぽたぽたと頬を伝う水を感じて、リオは目を覚ました。顔を横にむけると、べちゃりと額から濡れたタオルがずり落ちた。 「あー、起きた。よかった。泣いていたからさ、心配したんだ」  溌剌とした声に、目を細めてだれなのかと確かめる。透き通った金髪に、ブルーの瞳をしたマベール王子と目があった。 「僕だよ」 「え、え、えっと……」 「昨日のお詫びをしにきたんだ。こっぴどくローエンに怒られちゃったよ。お詫びに謝りにきたんだけど、汗びっしょりかいて寝てたからさ。熱もあるようだけど、ローエンは治癒魔法もしてくれなかったの?」  心配そうに顔を覗き込んで、マベール王子が訊いてきた。きれいな顔立ちが近づいて、リオはすぐに首を横にふった。 「そんなにいやがらないでよ。あのときはわるかったと思っているし、男娼って会ったことがないから興味が湧いたんだけど、きみが乙女みたいな反応をするからさ」 「お、お、おとめなんて……」 「冗談だよ」  からかわれたとわかり、リオの頬っぺたが赤くなった。マベール王子がくっと笑って、つないだ手を離した。そして横に置いてあったゴブレットをリオに手渡し、飲むようにうながした。 「これ、薬湯。さっき作ってもらったんだ」 「え」 「ちょっと苦いけど、飲んでみて」  そう言われたが、ゴブレットの中は深緑色の液体をしていた。つんと尖った匂いがして、プクプクと泡立つので顔をそむけたくなった。 「顔色が悪いから、元気になるようにいろいろ入れたんだ」 「……え、えっと」 「飲まないと、ローエンが心配するよ。ほら、がんばって」  ぐいぐいと唇におしつけられ、ローエンの名前を出されると弱い。  リオは息を止めて、ぐいっと一気に飲みほした。苦いかなと想像していたが、スウッと咽喉を通って、ミントのような清涼感があった。 「おいし……」  ゴブレットは空になり、すべて飲み下すとさきほどより身体が軽くなった気がした。気だるさが抜け、頭痛もなくなった。 「ほんとう?」 「ええ、おいしいです。ありがとうございます。それと……」 「ああ、勝手に連れ出すなってこっぴどく怒られたんだ。これで退散するよ。まったくきみの扱いって……」  マベール王子の視線がリオの胸元に止まって、はっとして、バスローブでスキマを直した。指摘されなくとも、そこには無数の痕が残されていた。 「あんなにずぶ濡れになったのに、すごいな」 「す、すみません」 「まあ、いいよ。ローエンが男娼を囲っているって噂で持ち切りなのもよくわかったしね」 「そ、そうなんですか」 「あれ? 聞いてない?」  マベール王子がぽかんと不思議そうな顔をした。 「きみ、ローエン専属の男娼くんなんでしょ?」 「そ、そ。そうです。よ、よろしくお願いいたします」  ぺこりとリオはちいさく頭を下げた。顔を上げると、マベール王子がこちらを見て、リオと目が合うと噴きだした。 「ぶはっ、きみってへんな人だな。本当に男娼なの?」 「だ、だだ、男娼です」 「ローエンにもっとこう、すごい色仕掛けしているんじゃないの?」 「い、いいい色仕掛けですか……」 「そうそう。だって、キスマークとかもろもろすごいよ。昨日もしたでしょ?」  あけすけもない言葉にリオはレッドドラゴンよりも真っ赤になった気がした。ご指摘の通り、昨日もいたしている。 「アハハハハ、へんなの。まあ、いいや今日は退散するけど、明日どこかに行かない?」 「ど、どこか?」 「うん、行きたいところとかある? 図書館でもいいよ。王族しか入れない書架し……」  図書館という言葉から、さきほどの夢を思い出して、つい見てみたいという欲がでた。もしかしたら、闇魔法について自分も調べたら、なにかつかめるかもしれない。 「い、いいいいいきたいです! いたっ」  リオが勢いよく身体を起こすと、ゴブレットが手から落ちて、伸ばした膝に直撃した。激痛が走り飛び上がると、マベール王子があわてて、ゴブレットを膝から取った。 「ははは、迎えにいくよ」 「え、あ、お、おれが図書館にむかいます」 「そう? じゃあ、明日またね」  ちょっとびっくりした顔をしたが、手をふってマベール王子は部屋を出ていった。

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