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第35話

 小鳥遊が寝室をそっと開けると、中からは鼻をすする音が聞こえた。  やっぱり布団は丸まっている。フェロモンがあまり出ないというのは本当なのか、過剰に鼻を押さえるまでもない。  もこもことしている布団に歩み寄ると、途中で気配に気付いたのか一度大きく揺れた。 「麻陽」  ずず、と鼻をすする。泣いているのだろうか。  オメガにとって、アルファなしで乗り切る発情期がどれほど辛いのかは小鳥遊には分からない。だから何を言えば良いのかと悩んでいると、布団はさらにぎゅっと固く丸まった。 「……どーしたの」  震える声だ。縋るような音はない。我慢をしたのかもしれない。そんな姿に胸を痛くしながらも、小鳥遊は落ち着いた仕草でベッドに腰掛けた。 「一人にして悪かった」 「仕方ないよ。発情期《ヒート》だし。大丈夫だから、出ていって」 「……いつもはどうしてた?」 「……発情期のエッチが好きなベータも多いから、店に出てたくさんエッチしてた」 「そうか……」  薄々分かってはいたが、聞いてみなければよかった。  少しの後悔をしながらため息を吐くと、小鳥遊はあっさり布団を剥ぎ取る。 「わ! あ、何っ……!」 「やっぱり泣いてたか」  驚きに振り向いた麻陽の顔は、真っ赤な上に涙に濡れていた。  火照っているというのが正しいのだろう。潤んだ瞳で小鳥遊を見つめると、我慢ができなくなりそうだったのかパッと目をそらす。 「は、早く出ていって……僕、フェロモンは少ないけど……僕には、症状は、しっかり出るから……」  震える指先が布団を掴む。しかし小鳥遊はそれに指を絡めると、押し倒すようにベッドに押し付け、麻陽の上に乗り上げた。 「は、な……して……」 「ごめん麻陽。苦しかったな。一人にさせて悪かったよ」  キスをしようと顔を寄せると、触れ合う直前で麻陽が顔をそらした。頬に着地した唇は、それでも覗き込むようにして麻陽の唇を追いかける。 「や! わ、何、やめて! ことりさん、本当に、んぅ!」  これが麻陽との初めてのキスだと、小鳥遊はそんなことに胸が高鳴っていた。  唇が重なると、すぐに舌を差し込んだ。麻陽の抵抗はあっけなく終わる。発情期の頭ではアルファに逆らうこともできないのか、うっとりとキスを受け入れ、絡む舌に喜んで応えていた。  麻陽の体から力が抜ける。それを確認して、小鳥遊は角度を変えてキスを深めていく。 「あ、ん……ふ、」 「上手だな、麻陽」 「ん……もっと」  唾液をまじえながら、互いに口内を探り合う。舌を擦りあっていれば、麻陽がじゅるりとそれを吸い上げた。 「はぁ……麻陽、セックスしようか」 「……ん、する……したい……挿れて」 「まだだめだろ。ゆっくりしよう」  部屋着をたくし上げて、胸元のピンクに触れる。麻陽も触れてほしかったのか、小鳥遊が触れやすいようにと自身で服を持ち、体を見せつけていた。 「どう触るのが好き?」 「あ、全部、全部っ」  指先で引っかいてやると、麻陽の腰も小刻みに跳ねる。  普段はぼんやりとした印象の可愛らしい容姿が、今では扇情的な色を宿している。そのギャップにくらりと理性を揺らしながら、小鳥遊は潰すように擦りつけた。 「ぅ、あっ!」 「すごいな……痛いのも好きか」 「好き、好き……触って……」 「本当……こんな姿を見ると心配になるよ」  身をかがめると、小鳥遊はすっかり熟れた胸の突起を唇で挟む。舌先で突いて吸い上げれば、麻陽からは甘やかな嬌声が漏れた。  小鳥遊の下腹はすっかり勃起して、窮屈そうにテントを張っていた。  麻陽のフェロモンが少しずつ濃くなっていく。本人の言うとおりそんなに濃いわけではないが、小鳥遊にとっては麻陽のフェロモンというだけで理性を揺さぶるには充分である。  胸の突起を吸い上げながら、空いている手で下を脱がせる。麻陽も脱ぎやすいようにと腰を浮かせて、誘うように脚を開いた。  甘い蜜液の匂いが鼻腔をくすぐる。オメガの匂いだ。唾液が溢れるのを感じながら、小鳥遊はそれを胸の突起に擦りつけ、甘やかに歯を立てた。 「は! あっ、う……!」  ここだけでこんなに感じて……中学の頃からすでにセックスをしていたのは知っていたが、こんなになってしまうものかと、小鳥遊は嫉妬やら興奮やらで忙しい。  勃起したそこに指を絡める。指先で先端をぬるぬるといじってやると、麻陽は大きく体を震わせていた。 「あ、ん! 気持ちい、それ、擦って、たくさん、」  いつか聞いた甘やかな嬌声が、今は電話越しじゃなく直接聞こえている。  あのときの小鳥遊は自慰をすることしか許されなかった。麻陽に触れることもできず、ただほかの男に抱かれているのを感じることしかできなかった。しかし今は違う。これからは小鳥遊だけが麻陽に触れて、小鳥遊だけがこの声を聞くことができる。  焦らすこともなく中心を擦り上げていると、麻陽はあっけなく吐精した。  自身の体に白を散らし、うっとりと目尻を垂らしている。  小鳥遊が触れたことで本格的に発情期が始まったのかもしれない。また少し匂いが濃くなって、麻陽の瞳からはさらに理性が消えていた。  

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