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第2話

 狼獣人の群れはイレーシュの森の奥に住んでいる。姿は人間に似ているが、頭の上には立派な耳が立ち、人間にはないふさふさした尻尾が生えていた。彼らが森の奥に隠れるようにして住んでいるのは、森からほど近い人間たちから見つからないためであった。  人間は狼獣人を恐れている。彼らは人の姿をした獣が自分たちを喰らうのではないかと怯えているのだ。そのため、強力な武器を作り出し、自分たちの身を守るようになった。  狼獣人たちはそんな人間たちをいたずらに怯えさせないよう、森の奥で密やかに暮らしていた。しかしある日、人里に迷い込んだ狼獣人の子どもが人間と遭遇してしまい、銃で撃ち殺されるという事件があった。  群れの中で大切に育てていた幼い命を奪われ、狼獣人たちは人間は自分たちの命を脅かす恐ろしい存在だと思い知らされた。  人間に近づいてはいけない。人間を見たらすぐに逃げろ。  そんな掟に従い、狼獣人たちは森から出ることはなかった。  イレーシュの森に、四つ足で木々を縫うように駆け抜ける狼獣人の姿があった。  名前はルカ。若い雄で、毛艶のいい健康な狼獣人だ。他の者たちとは少し違う、白に近いグレーの毛色の耳と尻尾を持っている。 「はっ、はっ、はっ……!」  楽しそうに目を輝かせながら走るルカの視線の先には、一匹のウサギが一生懸命逃げようとしていた。しかしこれは狩りではない。ルカの“お遊び”のうちのひとつだ。 「おい、またルカがウサギをビビらせてるぞ」 「あいつもバカだよなぁ。これが長に知れたら……」  ルカと同じくらいの年頃の仲間たちが笑いながら話している。一心不乱にウサギを追い回すルカを眺めながらリンゴをかじろうとした瞬間。  黒い影が彼らの横を通り抜けていった。 「今のって」 「まさか」  目にも止まらぬ速さで駆け抜ける黒い影は、全速力で駆けているルカを捕捉し、その背中に飛びかかった。 「わあ!」 「何をしてるんだお前は」  ウサギの姿が見えなくなっていく。地べたに押さえつけられたルカは自分にのしかかっている姿を見上げ、苦しげに言葉を放った。 「パパ、おもたい……」  パパと呼ばれたのは狼獣人の群れを統べる長、グランだった。

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