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第3話
「何度言ったら分かるんだ。狩りでもないのに彼らを追いかけるのはやめなさい」
押さえつけられて身動きの取れなくなったルカは潰れた声で「ごめんなさぁい」と謝ったが、それでもグランはルカの上から動かない。
「その言葉も、何度聞いたことか」
くうん、とルカが小さく鳴いた。眉をハの字にしてぎゅっと身を縮こめる。金色の鋭い眼差しに射抜かれて、ルカはどんどん情けない声を上げた。
「そうやっていればなんでも許されると思うなよ?」
グランは呆れたように言い、ルカの上からゆっくりと身体を離した。地べたに突っ伏していたせいですっかり汚れてしまったルカは、ぶるぶると身を震わせて身体についた泥や葉っぱを振り落とす。
「どろどろだー。水浴びしてこよ」
「そうだな。ついでに頭も冷やして反省してこい」
その言葉に、自分より頭ひとつ分背が高いグランを見上げ、ルカはしょんぼりと肩を落とす。
怒られてしまうようなことをしていた自分が悪いのだけど、怒っているグランを見るのは嫌だった。
腕組みをして自分を見下ろすグランから逃げるようにその場を去る。それを笑って眺めていた者たちもいつの間にかいなくなっていた。
水浴びや洗濯に使っている泉で、ルカは身に纏っていた衣を上だけ脱いで水につけて泥を落とした。狼獣人たちの中には手先が器用な者が数名いて、その者たちが服を作ったりアクセサリーを作ったりする職を担っている。
ルカが着ているのは濃紺の装束で、金の糸が織り込んであった。上下ともに同じ生地で作られていて、深紅の腰帯には木製のビーズが編み込まれた飾りを付けていた。
「よし、綺麗になった」
胸元で揺れるネックレスは艶やかな青い石がひとつついていて、ルカはその石をきゅっと握る。小さな頃、グランからもらったそのネックレスはルカにとって大切なお守りのようなものだ。
「怒られちゃったー……」
足をちゃぷちゃぷと泉につけて遊ばせながら、ルカは悲しげな声を漏らす。細い足首には色とりどりのミサンガをたくさん付けていて、それが水にたゆたうのを眺めるのが好きだった。
「よお、ルカ。ちっせえ身体がもーっとちっちゃくなってるぞ」
聞こえてきた笑い声は、幼なじみのレクスのものだった。すらりとした長身に、愛嬌のある垂れ目の雄。整った顔のおかげでいつも雌を引き連れて歩いているような軽薄なやつだ。
「うるさいなぁ。気配消して近づくなよ」
「オンナノコたちから逃げるにはこれが一番手っ取り早くてな」
「どうせ匂いで見つかるのに」
「ははっ、言えてる」
ルカの隣に腰掛けて、レクスも一緒に泉へ足を投げ出した。
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