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第6話
グランはいつだって自分のそばにいてくれた。
パパ、と呼べばすぐそばに駆け寄ってくれて、頭を撫でてくれて、いつだってルカの味方だった。
それが少しずつ変わり始めたのは最近のことだ。
原因はわかっている。グランとルカが暮らす洞窟にクレアがたびたびやってくるようになった。彼女の存在が、グランとルカの関係を少しずつ変えていく。
ルカ自身はそうは思っていないけれど、周りの狼達からしたら「お似合いのふたり」らしいのだ。
『美女と色男のカップルなんて、生まれてくる子はきっと美形に違いない』
そんなことを言われても、ルカはいい気分になれなかった。
グランの隣は自分のものだと勝手に思い込んでしまっていたからだ。
(パパが誰かのものになるなんて、やだ)
我ながら子どもっぽいことを考えてしまって嫌になる。でも、本心は隠せない。まだ残り続けるクレアの匂いが嫌で、ルカは顔をしかめた。
「ルカ?」
名前を呼ばれて、自分が立ち尽くしていたことに気づく。
(俺……今、すごく嫌なこと考えてた)
クレアの存在が受け入れられない。ふたりがどんな関係なのか考えたくもない。どうしてこんなに嫌な気分になるのだろう。いい子にしなきゃ、グランに嫌われる。
(パパに嫌われたら、俺どうしたらいいかわかんない――)
自分の身体の悩みを相談するよりも、もっともっと大きい問題にぶつかっている。誰にも話せない、心の中のもやもや。
それさえ覆い隠すように、グランはルカの手を引いて腕の中にすっぽりと収めてしまった。
「わ、わ」
「なんだ? ルカのくせに難しい顔して」
じゃれつくように寝床に引っ張り込まれて、小さな頃からそうだったように苦しいくらい強い力で抱きしめられる。幸せな気持ちで胸がぎゅっといっぱいになった。
「だめ、やだよ、もう」
「つれないこと言うなよ、寂しそうな顔してぼーっとしやがって」
もしかしたら、ルカがクレアに対してもやもやしているのを、グランは知っているのかもしれない。そうだとしたら、すごく困ってしまう。グランはわがままなルカのことを、面倒臭いお荷物のように思うかもしれない。
「っ……」
「ほら、尻尾貸してやるから。今日は俺の寝床で一緒に寝よう」
ふさっと真っ黒で艶々な尻尾がルカの手元を掠めた。小さい頃、よくこの尻尾に抱きついて眠っていたっけ。毛艶が良くて気持ちいい、グランの尻尾の魅力には今も勝てそうにない。
「ん……俺、もう子どもじゃないもん……」
「そんなこと言いながら尻尾握ってるのはどこのどいつだ?」
グランの体温を感じていると、頭の中がふわふわしてきた。このまま彼の腕の中で眠ってしまいそうだ。
「――おやすみ、ルカ。いい夢を」
低くて落ち着く声で囁かれ、ルカはすっかり気持ち良くなって目を閉じた。
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