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第8話
ソシエのお願いとはなんだろう。
なんとか一匹のウサギを捕まえ、腹を満たしたルカは走り回った身体を休めるようにゆっくりとソシエの住処に向かっていた。
鳥の囀りが気持ちのいい昼下がり。倒れた大木をひょいと飛び越え、ルカはそろそろ目的の場所へ着くと思い四つ足での移動に変えた。あまり遅くなっては行けない。ここからならあともう少しだ。ルカは母親と暮らしているソシエの元へ駆けていった。
「こんにちはー!」
「あら、ルカくんいらっしゃい」
小さな洞窟に入ると、ソシエの母親がにっこりと笑って出迎えてくれた。おっとりしていて優しそうなソシエの母は、「ソシエは奥にいるから、どうぞ入って」とルカを招き入れる。
「お邪魔しまーす」
「あ! ルカ、ちょっと遅いんじゃない? ごはんにありつけなかったの?」
「ちゃんと食べてきたよ、俺だってれっきとした大人だ。自分で狩りだってできるさ」
少しだけムッとして見せると、ソシエはけらけらと笑った。
彼女の手元には作りかけのブレスレットがある。それは色の感じから、ルカが注文したもののようだ。
「きれいだね」
「ルカに似合うように大きめのビーズを使ったりしてるのよ。素敵でしょ! ……あ、それよりもちょっとこっちにきて、ここに立って」
座り込んでいるソシエに手を引かれ、気をつけをした状態で立たされた。何が始まるのかよく分からなくて尋ねようとした瞬間、目の前が深い赤色でいっぱいになった。
「……?」
「わあ、やっぱり私の目に狂いはなかった!」
翻ったのは、艶やかな生地の衣服――いや、この形は女性もののドレスだ。腰のあたりできゅっと締まって、そこから下へたっぷりとした布が花のように広がっている。
そのドレスをあてがわれて、ソシエはうんうんと頷いていた。
「ソシエ? これって、女の子が着るやつ……」
「そうだけど、ルカの毛色と色が合うか試したかったの。ルカは白くて素敵な耳と尻尾をしてるから」
確かに、ルカのような白い毛色の狼獣人はなかなかいない。けれど、女性もののドレスの出来栄えを見るのにどうして自分のような雄を選んだのか、幼なじみとはいえ理解ができなかった。
「なんで俺?」
「ルカって自分で気づいてないのかもしれないけど、とても綺麗な顔をしてるのよ! 私だってあなたみたいに大きな目で、艶々のお肌で、スタイルの良い身体になりたいの!!」
目をギラギラさせながら言うソシエは本気なのだろう。でもソシエがいう通り、自分自身が綺麗だなんて思いもしなかった。
雌みたいな顔立ちだとか、貧弱そうだとかは言われたことがある。
それを綺麗だと言われるとなんだかこそばゆい気持ちになってしまった。
「ブレスレットのお代よ! ドレス作りを手伝って欲しいの。わかったらほら! 自分にドレスを当てて立ってて」
「は、はい……」
「胸のところに真っ白の花飾りをつけて……裾の方にはビーズを縫いつけた方がいいかしら?」
ソシエは自分の世界に入ってしまって、周りが見えなくなっているようだ。ルカに合わせたドレスを遠くから見たり、近くで生地をつまんで寄せてギャザーを作ってみたり、試行錯誤に没頭している。
このドレスが誰のものなのか分からないまま、ルカは仕方なくソシエの気が済むまで付き合うことにした。
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