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第10話
「本当に綺麗だよ、ルカ。嫉妬しちゃうくらい素敵……って、男の子がこんなこと言われたくないか、ごめん」
「いや、えっと……俺の方こそごめん、なんか恥ずかしくって……」
ルカは思っていることを素直に伝えた。綺麗だなんて言われたことがないから戸惑ってしまった。それに、この姿をグランに見せたらどんな反応をするのかなんてことを考えてしまったから頭の中がいっぱいいっぱいになってしまった。
「このドレス、俺みたいな毛色の人が着るの?」
「そうなの! 知ってるかな、クレアさん。美人だよねえ、艶々の真っ白な尻尾、憧れるー!」
思考が一気に停止する。これは、クレアのドレス。最近自分とグランの巣をよく出入りしている彼女のドレス。
そう認識した途端、心がざわついた。焦りのような、困惑のような、いろんな感情が混じり合ったおかしな感覚。
「クレアさん……」
「そう、クレアさん。どうしたらあんなに綺麗になれるんだろ? 私もクレアさんみたいな色っぽい大人の狼になりたいなぁ」
さっきから心がかき乱されて休む暇がない。クレアのことは正直言って好ましく思えていない。グランを奪っていってしまう存在のように思えているからだ。
「このドレス、なんのためのドレスなの?」
「んー? クレアさんって時々こういうの注文してくれるんだけど、なんのためのって聞いたことはないなぁ。でも、綺麗な姿を見せたい相手っていうのは……ねえ?」
含み笑いをするソシエが言いたいことはすぐにわかった。色恋に疎いルカでもそれくらいはすぐにわかる。
好きな雄の前ではいつだって綺麗でいたいものだろう。
同時にルカはその相手が誰なのかも、わかってしまった。
(パパに見せるんだ……このドレス着て、綺麗でしょって……)
「……ルカ?」
「あ、ごめん……」
「本当に大丈夫? 体調悪い? なんだか顔色良くないけど……」
これ以上は限界だった。胸の内のごちゃごちゃのせいで気分が悪くなってしまって、笑顔を作って立っていることもできそうになかった。
「ごめ……なんか、ふらふらする……」
「わああ、無理させてごめんね! 脱いで脱いで、ベッドに横になる? 熱あるのかなっ?」
ソシエに支えられ、額に触れられたり背中をさすられたりしているうちに「どうしたの?」とソシエの母親が顔を覗かせた。
「お母さん、ルカが体調悪いって……」
「まあ、それはいけないわ」
ドレスを脱ぎ、上半身があらわになっているルカにふわりと毛布がかけられる。ルカは起きあがろうとしてみたが、くらくらしてしっかり立ち上がることができない。
(あれ……おかしい、な……)
少しふらついただけだと思っていたのに、どんどん身体が重くなる。
どうやら本当に熱があるみたいだ。息苦しさを感じて、呼吸が荒くなる。
「ルカ、しっかりして」
ソシエの声が遠くなっていく。目を閉じたら本当に意識が飛んでしまいそうで、なんとか起きていられるよう抗ったけれどそれも叶わなかった。
「ルカ!」
自分の名を呼ぶソシエの声が途切れ、ルカは真っ暗闇に落ちていった。
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