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第12話

 それから巣にしている洞窟に辿り着いて、グランは用意していた寝床にルカを寝かせた。明日には薬屋から解熱効果のある薬をもらってくると言い、そっと毛布をルカの身体にかける。大きな手が額に当てられて、その手のひんやりとした感触に安心感を得た。 「パパ……」 「ゆっくり眠って体力を回復するんだ。大丈夫だ、俺がそばにいる」 「ん……ありがと……」  言葉通り、グランはルカのそばにいてくれた。優しい眼差しで見守ってくれて、時々毛布を直してくれたり額に手をやって熱を見てくれたりした。  グランは愛情深い狼だ。血の繋がっていないルカをこんなにも心配し、看病してくれる心優しい狼。家族としても、一匹の狼としても、大好きなグラン。  伝えたいけれど、伝えられない。家族だから、きっとルカの気持ちは受け入れてもらえない。血が繋がっていないとはいえ、幼い頃から面倒を見てくれた父親代わりのグランが、自分を恋愛の対象として見てくれるなんて夢は見てはいけないのだ。 (悲しいなぁ……)  熱でぼうっとした頭の中でそんなことを考える。辛くてまた泣き出しそうになった。でも、これ以上心配をかけることはできない。 (早く元気にならなきゃ……迷惑かけてばっかりじゃだめだ)  グランのことが大好きだから、負担になるような存在になりたくない。  その瞬間、涙が一筋流れ落ちた。  弱い自分が嫌で嫌で仕方ない。  ルカは毛布を頭から被って、涙に気づかれないように顔を隠した。  ルカが目を覚ましたのは、何か言い合いをしている声が聞こえたからだ。洞窟の入り口から光が差し込んでいる。もう朝が来ているのだとわかったけれど、そんなことよりも聞こえてくる声が気になってだるい身体を起こした。 「今日、一緒にいてくれるって約束したじゃない。嘘をついたの?」 「そんな約束をした覚えはない。君の勘違いだ。それに今はルカが――」 「またそれ。あの子はもう大人でしょう? あなたがそうやっていつまでも過保護でいるからあの子は自立しないのよ」  聞こえてくる音、言葉がルカの心に突き刺さる。この声はクレアだ。クレアとグランが言い合いをしている。それも自分のことで。ルカは思わずふらつく身体を引きずって岩陰からふたりの姿を覗き見た。 「こんなこと言いたくないけど、あの子がいるから私たちずっと……」 「クレア」  鋭い色を含んだ低い声でグランがクレアの名を呼ぶ。それ以上は言わせない、という意思を感じる声に思わずクレアは口をつぐんだ。  ――自分のせいだ。この口論を引き起こしているのは自分の存在のせいだ。  そう思い、ルカはその場から逃げ出したくなった。 「ルカは家族だ。そんなふうに言うな」 「……好きにすればいいわ。そんなに家族ごっこが楽しいなら、一生ルカと一緒にいればいいじゃない」  棘のある言葉を投げつけてクレアは洞窟を出ていった。姿が見えなくなって、大きなため息が聞こえてくる。  こっそりその姿を見ていたルカは静かに地べたにしゃがみ込んだ。  自分の存在がグランに迷惑をかけている。胸が苦しくてしょうがない。 「……ごめんなさい……」  グランに聞こえないようにか細い声で吐き出して、じゅわりと涙が滲んでくるのを必死に堪えようとした。

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