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第13話

 昨日から泣きっぱなしだ。ルカはぐしぐしと滲む涙を拭って、グランに気づかれる前に寝床に戻ろうとした。そんな時、弱々しい背中に声がかけられる。 「何してるんだ、お前」  びくりと肩を震わせて、ルカはゆっくり振り返る。そこには仁王立ちしているグランがいた。 「ちゃんと寝てないとだめじゃないか」 「あ……えと……」 「ほら、横になれ。何か食べれるものはあるか?」  幸い涙には気づかれていない。  そそくさと寝床に横になり、毛布を頭から被ってしまえばもう大丈夫だ。クレアとのやりとりを見ていなかったことにして、いつもの自分を演じなければ。 「なんでも食べれる……と思う」 「はは、お前はそうだよな。熱出しても食欲だけは普段と変わらない」 「う、ん……」 「……? どうした?」  ルカにさっきのクレアとのやりとりを見られていたとは思ってもいないグランが顔を覗き込もうとする。その目から逃れようと、ルカは縮こまって首を横に振った。 「だ、大丈夫、熱でちょっと、ぼーっとしてるだけだから……」 「大丈夫じゃないだろ、それは。急いで薬をもらってくるからちゃんと寝てるんだぞ」  くしゃくしゃと頭を撫でられてルカは何度も頷いた。  グランは薬屋の元へ向かい、洞窟でひとりになったルカは眠って体力を回復させようとした。けれど心臓がドキドキしてしまって、身体は辛いのに眠ることができない。グランに撫でられたところに手をやって、「ふぅ……」とため息をつく。撫でるときに近づいてきたグランの顔、体温、匂い――全部が脳裏に焼きついて離れない。  この感情が『恋』というものだと自覚してどれくらい時が経っただろう。大好きで大好きでたまらない、あの大きな背中。小さい頃から途方もなく大きな愛情を注いでくれたグランにこんな想いを抱くのはおかしなことなのかもしれない。口に出してはいけない感情なのかもしれない。それでも、愛することを止められないのだ。  苦しくなって、ルカは毛布をぎゅうっと握りしめた。 (俺はパパに相応しくない……パパは群れの長なんだから、いずれはつがいを作って、みんなから祝福されて、それで……)  ――……可愛い子どもに恵まれて、幸せになるんだ。  グランの未来に自分は必要ない。そんな結論に辿り着いてしまい、また辛くなる。どうしようもない現実に追い詰められて、ルカは毛布にくるまって小さく震えた。

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