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第14話
それからしばらくして、ルカはいつの間にか眠りに落ちていたようだ。熱がどんどん上がってきているのがわかる。はぁ、と熱い吐息をこぼし、洞窟の天井を見上げた。
そんな時、何者かの足音がして視線を音のする方へ向けた。これはグランの足音じゃない。では、いったい誰が。半身を起こしてじっと様子をうかがった。
「っ……!」
鋭い視線がルカに突き刺さる。そこにいたのは、今朝もその姿を見たクレアだった。真っ黒で胸元を強調した服に身を包み、腕組みをしている。
「グランはいないみたいね」
「クレアさん……?」
ルカに対する憎しみの色を隠す気もないようで、眉間に皺を寄せて近づいてきた。
恐怖を感じて早くその場から逃げ出したかったが、身体がまったく動かない。
怖くて彼女から目を離せないでいると、綺麗だと思っていたクレアの表情が一気に歪んだ。
「……あんたなんかいなくなればいいのよ」
低く、唸るようにクレアが言う。
「そうすれば、グランの心は私だけのものになるのに」
怒りを露わにした彼女の言葉に肌がひりついた。
クレアははっきりとルカの存在を憎んでいる。それは彼女の口から吐き出された言葉で明確になった。
今までこんな暴力的な言葉を投げつけられたことなんてなくて、頭が真っ白になる。怖くて怖くて、身じろぎもできない。
「……あなたもグランのことが大好きなんでしょう? なら、わかるわね」
「え、っ」
「消えて」
さっきまでの燃えるような憎しみの言葉とは打って変わって、氷のように冷たく突き刺さる言葉。それはルカの心を壊すには充分過ぎるほどの冷酷さだった。
「あなたの存在が邪魔なのよ。あなたがいるからグランは幸せになれない」
「そ、んな……こと」
「まさか気づいてないの? あなたって本当に自分のことしか考えてないのね」
呆れたようにため息をつくクレアに言い返す言葉もなかった。
気づいていないわけじゃない。信じたくなかっただけだ。それをクレアに突きつけられて現実から逃げられなくなった。
そうしたくないのに、ルカはよろめきながら立ち上がる。
「分ればいいのよ」
鼻で笑うクレアの顔は見れなかった。彼女の勝ち誇った顔を見てしまったら、心が本当にぐちゃぐちゃに砕けてしまいそうだった。
まだ熱のある身体を引きずって洞窟の外へと向かう。
(出ていかなきゃ……俺は、邪魔者なんだ……)
グランの姿はまだ見えない。薬屋から帰ってきて、自分がいなくなっていたらどんな顔をするだろう。「ようやく迷惑ばかりかける厄介者がいなくなった」と思うだろうか。
――そんなことない。そんなことない……!!
必死に否定しようとしても、粉々に砕かれた心ではグランのことを信じることさえできなかった。
大好きなのに。……大好きだから。早くここから消えなければ。
「……さよなら」
小さく呟いた言葉は涙と一緒に地面に落ちていった。
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