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第15話
足元がおぼつかない。木の根に足を取られて何度も転んだ。泥で汚れた服をはたく余裕もなく、ただひたすらに歩いていく。
そんなルカの姿を見つけ、大慌てで駆け寄る一匹の狼がいた。
「ルカ!?」
「……レクス?」
掠れた声で目の前に現れた幼なじみの名前を呼んだ。そういえば、とにかくあの洞窟から離れることで頭がいっぱいで、喉の渇きを忘れてしまっていた。
走る体力もないから、必死にここまで歩いてきたのだ。それが幼なじみの顔を見た瞬間、ふっと張り詰めた糸が切れるように地べたにへたり込んでしまった。
「おい、しっかりしろ!! ソシエからお前が熱出したって聞いてたけど……こんなところで何してるんだよ!?」
「だい……じょぶ……」
どこが大丈夫なんだ、と言いながらレクスはルカの身体を支えて近くの大木の根元に座らせた。
「うわ、全然熱下がってねえじゃん! 薬は飲んだか? つうか寝てろよ、こんな状態で外出てんじゃねえ!」
矢継ぎ早に言いながら、腰にさげていた木製の水筒をルカの口元に当てがう。少しずつ、ゆっくりと水を飲むルカの様子を見て、レクスは次第に落ち着きを取り戻した。
レクスは雌の狼獣人たちへの態度から軽薄に見えてしまうが、本当は優しい性分だ。幼なじみが苦しんでいるのを放ってはおけないのだろう。ルカの額の汗を拭ってくれたり、何度も「どこか苦しくないか? 大丈夫か?」と問いかけてくれた。
「大丈夫……俺、行かなきゃ……」
「どこにいくんだよ、そんな身体で! うちに帰れって! グラン様が心配してるだろ!?」
「パパのところには、もう帰れない、から……」
「はぁ!? なんだよそれ!?」
レクスの大きな声が頭に響く。思わず眉をしかめると、レクスは小さく「す、すまん」と謝ってきた。
ルカは詳しいことを話すべきか悩んだ。いくら幼なじみとはいえ、家を追い出された話なんてしたくない。辛いことを思い出すのは嫌だった。
しばしの沈黙ののち、レクスは何か察した様子でそれ以上のことを聞こうとはしなかった。
「……行く場所がないなら、俺んちにくるか? 確か薬もあったし……それに、こんな状態のお前をほっとけない」
詮索せず、レクスは提案をしてくれた。こういうところがあるから、きっと雌の狼獣人たちも夢中になるのだろう。
「いいの……?」
「いいに決まってる。お前は大事な親友だからな」
「……ありがとう」
「よし、決まりだ。少し休んだらうちに向かおう」
頼もしい幼なじみを持ってよかった。ルカは安堵して口元を緩ませ、こくりと頷いた。
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