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第17話

「……カ、ルカ」  ふと、自分の名前を呼ばれたような気がしてルカは目を開けた。目の前に心配そうな顔で自分を見つめているレクスがいる。  あの真っ暗闇は夢だったのか、とほっとしているとレクスがそっと頬に触れてきた。 「苦しいのか? 熱は下がってるみたいだけど」  ぐい、と目尻を拭われる。それで自分が泣いていたことに気づき、恥ずかしくなってしまった。小さな頃から仲良くしているレクスが、自分よりもずっと大人に見えたからだ。 「へ、変な夢みちゃって」 「いやな夢だったのか?」 「うん……」  詳しいことは言わなかったが、レクスはぽんぽんと頭を撫でてくれた。グランがする仕草に少し似ていてドキドキする。 「大丈夫だよ、俺がついてる。熱出したせいでおかしな夢見ただけさ」 「ありがと。もう、泣かないから」  身を捩ってレクスと向かい合おうとしたら、全身がバラバラになりそうな痛みが身体中を駆け巡った。昨日、無理をして歩き回ったせいだろう。眉を顰めたルカをふかふかの寝床へ押し戻し、「無理すんな」とレクスは心配そうに言った。 「まともに動けるようになるまで、ゆっくり休むんだな。グラン様にルカが俺の家にいることを伝えたほうがいいか? きっと心配してるぜ」  ルカは力無く首を横に振った。自分の居場所を知れば、グランは優しいからきっと迎えにきてしまう。それでは家を飛び出した意味がない。 「……何があったか知らないけど、本当にいいのか?」 「うん。俺、もう大人なんだから。パパに頼ってばかりじゃだめなんだ」 「お前の口からそんな言葉が出るなんてな。喧嘩でもしたのか……それとも遅れてきた反抗期か? お前らしくないぞ?」  驚いたようにレクスが言った。それもそうだろう。こんなことを言うのは今が初めてだ。いつもグランに甘えてばかりのルカから「頼ってばかりじゃだめ」などという言葉が出たことに、レクスは心底驚いていた。 「まあいいや。なんか獲物を狩ってくるから、大人しくしてるんだぞ」 「はぁい」 「逃げ出すの禁止な」 「わかってる、ちゃんと休んでるから」  念を押すレクスの顔が真剣だったので、思わず焦って答えてしまった。  逃げる理由はない。迷惑をかけてしまっているけれど、それでも自分を受け入れてくれているレクスに感謝するばかりだ。  狩りに出かけるレクスの背中をぼんやりと見送り、ルカはそっと目を閉じた。

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