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第19話
『あんたなんかいなくなればいいのよ』
クレアから言い放たれた言葉を頭の中で何度も反芻してしまう。
いなくなればいい――自分など、存在していること自体が罪なのだ。
その一言を何度も繰り返していると、グランを自分のものにしたいという彼女の強い意思に突き刺され、えぐられ、どうしようもなく辛い気持ちになる。
なぜなら、ルカはクレアを通して自分を捨てた母親の存在を見ているからだ。
捨て子だったルカは母親の愛情を知らない。ルカを育てることをやめた母親が、今どこにいるのかもわからない。
けれど、はっきりしているのは自分が『いらないもの』として捨てられたということだ。どんな理由があったにせよ、ルカは母親に捨てられた。ルカを愛することを放棄した母親を恨まずにはいられなかった。
(でも、パパは俺の母親のことを悪く言ったりなんてしなかった……)
とても不思議だった。消えた母親のことを肯定も否定もせず、グランはただひたすらにルカのことを愛してくれた。
でももうだめだ。一緒にいたら、もっともっとと愛情を欲してしまう。グランの優しさに甘えてばかりでは、かえって不幸にしてしまうのだ。
(大好きになりすぎたんだ……俺が欲張りだから、ばちが当たった)
レクスの匂いのする毛布をぎゅっと抱きしめて、孤独に耐える。もうグランに依存したりしない。グランの匂いを忘れようとするかのように、毛布へ顔を埋めた。
寂しがってちゃいけない。甘えてはいけない。これからはひとりで生きていくのだから。
そう決意しようとする心と、それでもまだグランのことを想ってしまう心がぐらぐらと自分の中で揺れているのがわかる。熱が下がってだいぶ頭がはっきりしてきたために、いろんなことを考えてしまってかえって辛くなってしまった。
「たっだいまー。ルカ、大丈夫か?」
苦しくなって丸まっていると、陽気な声が聞こえてきた。レクスが獲物を捕まえて帰ってきたみたいだ。
「ん……だいぶ楽になったよ。ありがとう」
「その割には顔色悪いな。食欲は?」
「ごめん、あんまり無くて……」
せっかく狩りに出てくれたのに、食事ができないというのは申し訳ない気持ちになってしまった。けれど今は本当に何も喉を通りそうにない。耳がしゅんと垂れて、ルカは上目遣いにレクスを見た。
「謝んなくていいし、その顔ちょっと可愛く見えるからやめろってー!」
レクスは笑いながら言った。彼の持ち前の明るさがルカのことも少しだけ明るく照らしてくれる。それは今のルカにとってはとてもありがたいものだった。
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