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第22話
「何があったのか、聞いてもいいか?」
「……うん」
レクスの腕の中で小さく頷いた。
何がきっかけになって家を飛び出してきたのか。クレアの言葉、自分の思い。グランに対する気持ち――それを一生懸命伝えた。
さすがにグランのことを想っていることは言えなかったけれど、何が起きたのか、その事実は伝わったと思う。ルカはたくさん話したせいで少し息苦しくなって、呼吸を乱しながらレクスの顔を見上げた。
「……そっか。辛かったな」
「俺、もう何が正解なのかわかんなくなっちゃった」
「家出のことか? ……そうだな、勢いで飛び出しちまったのはわかるけど、きっとグラン様が心配してるぞ」
「うん……」
「きっとっていうか、絶対だな」
レクスが毛布を引き寄せてルカの背中にかけてくれた。ぬくぬくしていると思わず眠りに落ちてしまいそうだった。それくらい、レクスの腕の中は心地良い。
「クレアさんはお前に嫉妬したんだよ。グラン様がいつもお前のことばかり気にかけてるから」
「嫉妬……」
「だからキツイこと言って追い出そうとしたんだ。ルカがいなくなればグラン様は自分のものだって思ったんだろうな」
「…………」
クレアを自分に置き換えて考えて、どんな気持ちがするのか考えてみる。そうすると、どす黒い感情がどろどろと腹の底で煮え立つようないやな感覚に襲われた。
これがクレアの感じていた気持ちなのかと思うと、彼女の言葉や態度の理由がわかった気がする。
だからといって、自分はそんなふうに誰かに敵意を向けたりしない――いなくなればいいなんて、誰かの存在を否定するようなことは絶対にしない。
「すごくこわい……」
「大事な居場所を奪われたんだ。そう思うのも無理ないな」
「もう、パパのところには戻れないのかな」
「そんなことはないさ。グラン様もお前のことを探してるに違いない。むしろ早くうちに帰って、家出した理由を伝えるべきだと思うけどな」
純粋なルカはクレアの悪意をそのまま受け止めて、傷ついた。自分の心の傷のことで頭がいっぱいで、グランのことを考えていなかった。
ルカが高熱を出している時に急にいなくなったら、優しいグランはきっと心配する。たくさん走り回って、ルカを探し回っているかもしれない。不安にさせて、迷惑をかけている。ルカはそんなことを望んではいなかった。
「……パパに会いたい」
「うん」
「俺、自分のことしか考えてなかった」
「まだ間に合う。俺も付き添ってやるから、帰ろう。お前の居場所へ」
背中をぽんぽんと叩かれたルカは、深く頷いた。帰るんだ、自分の居場所へ。グランの元へ。
「ありがと……レクス」
「俺みたいな親友がいてよかったな」
ぎゅう、と強く抱きしめられてルカはようやく心から笑うことができた。
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