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第23話

 グランの元へ帰るなら早い方がいいと思ったが、まだ足元がおぼつかない。そんなルカの様子を見たレクスが「もう一晩泊まっていけ」と言うので、ルカはその言葉に従った。  しっかり休んで、元気な姿を見せないと。そして、きちんと謝らないといけない。勝手に家を飛び出してきっと心配させてしまった。クレアの言葉に惑わされたとはいえ、自分勝手な行動をした後悔で胸がじくじくと痛む。 「難しい顔してるな。グラン様のことを考えてたのか?」  水筒を片手にレクスが寝床のそばまで来てくれた。手渡された水筒で水を飲み、ふう、と小さく息を吐き出す。  その様子を見守っていたレクスが手を伸ばし、ルカの頬へ触れた。 「……? レクス?」 「本当に、グラン様のことが大好きなんだな」 「えっと……大好きだけど、何かおかしいかな」 「おかしくないけど、俺が言いたいのは……お前のそれはもっと特別な気持ちなんじゃないかってこと」  心臓が飛び跳ねるように早鐘を打った。隠していたのに気づかれていた――驚きと微かな恐怖で挙動がおかしくなってしまう。  もっと自然にしていれば誤魔化せたかもしれないのに。素直な性分のルカはその驚きをすっかり顔に出してしまっていた。 「それを隠そうとして、欲求不満になって悶々としちまう。そうだろ? お前が無駄に森を駆け回るのは、それが原因だよ」 「ちがっ……そんなことない」  意地悪を言わないでほしい。ルカは焦ったように口走った。けれどその様子がレクスの言葉を肯定している。 「経験豊富な俺様の言うことに間違いなんてない」 「間違ってる! 俺はそんな変なこと考えてないし……」 「隠さなくていいんだよ。俺にも、グラン様にも」  笑みを浮かべてレクスが言う。ルカはその言葉に混乱してしまった。  絶対に隠さないといけない。そう思っていたことを、レクスは容易く「隠さなくていい」と言った。  誰にも話せない秘密を隠すことで自分を保っていたルカにとって、その言葉はきらきらと輝いていた。  縋っていいのだろうか。その光は本物だろうか。  手を伸ばしてその希望を掴んでもいいのか。  ルカは悩み、頭を抱えた。 「あー……いや、そんな顔させるつもりはなかったんだ、悪い」  自分がどんな顔をしていたのかわからない。レクスが申し訳なさそうに謝ってきて、はっとして我に返った。 「俺、やっぱりおかしいんだよ。パパのことを……す、好きになるなんて、ふつうじゃない」 「それがおかしくないっつってんの。誰かを好きになるって、最高なことだろ?」 「でも……」 「それとも、グラン様のことを好きになって後悔してるのか?」  後悔、と言われたらそんなことはなくて、グランと一緒にいるだけでたくさんの幸せな時間を過ごすことができた。一緒に食事をするだけで、一緒に会話をするだけで、そんな些細なことで幸せで胸がいっぱいになる。そんな気持ちになれたのはきっと仲良し親子というだけではない、この特別な感情のおかげでもあるのだと思う。 「俺はお前に幸せになってもらいたいんだよ」 「レクス……」 「幼なじみだし。お前ってなんか危なっかしくてほっとけないし。グラン様がそばにいてくれるなら安心だからな」  けらけらと笑いながらレクスがルカの頭を撫でる。こんなふうに思われていたなんて、意外だった。でも、きっとこれはレクスの本心だ。いたずらっぽい笑顔だが、嘘じゃない。 「……ありがとう。すごく、勇気が出た」  ルカはやっと笑うことができた。レクスの言葉が嬉しくて、失いかけていた希望を取り戻せた。きっとグランの元に戻っても、もう自分を見失うことはないだろう。かけがえのない幼なじみがそばにいてくれて、本当によかった――ルカはレクスが「くすぐったいからやめろって!」と止めるまで、何度も感謝の言葉を口にした。

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