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第25話
ルカを抱きしめる腕にどんどん力が込められる。それでもルカは「痛い」とも言わず、ただグランにされるがままに抱きしめられていた。
「どこ行ってたんだ。心配してたんだぞ」
「……ごめんなさい、パパ」
それ以上の言葉は必要なかった。ルカは今、グランの大きな愛情に包まれている。それだけで十分だ。グランの逞しい腕の中は心地よくて、愛おしく感じる。レクスがそばにいるのに、何もかも忘れてふたりは抱き合った。
「レクスが面倒をみてくれていたのか」
ふと顔を上げてグランが尋ねる。レクスは自分が邪魔者になっているのではないかと心配しながらも、小さく頷いた。
「そうか、ありがとう。礼をしなくてはならないな」
「い、いえ、それほどのことでも……。親友が困っていたから助けになりたかっただけです」
「良い友を持ったな、ルカ。きちんと感謝をしなくてはいけないよ」
グランはルカの身体を少し離して、目を見つめながらそう言った。
抱きしめられることに夢中になっていたルカが切なげな目で金色の目を見つめ返す。もっと、ずっと抱いていてほしい――そんな欲求を隠しもせず、濡れた目で求めた。
「どうした? まだ熱があるのか?」
潤んだ瞳を見て、グランはルカの額に手を当てた。熱はなさそうなのでグランは安心したようだが、ルカはそれでは満足いかずに額をグランの胸へ押し付けていた。
「本当にどうしたんだ。子どもの頃に戻ったみたいだぞ」
なんと言われても構わない。ルカは今、とにかくグランの熱を感じていたかった。
そんなルカの一生懸命な様子を感じ取って、レクスが「あのー……」と控えめに声をかけてきた。このままでは本当に自分はお邪魔虫になってしまう。そんなことになるくらいなら、さっさとこの場を去ったほうがいいと感じたのだ。
「ああレクス、すまないな。――こら、ルカ。そろそろ離れなさい」
「いいんです! 俺はもう行きますんで……ルカと一緒にいてあげてください」
そう言って慌ててその場から去ろうとするレクスに、グランは「本当に助かった。感謝しているよ」と声をかける。低くて胸の奥にずんと響いてくる声に、なるほど、ルカが夢中になるのもわかる気がする――なんてうっすら考えながらレクスは来た道を戻って行った。
「……それで。どうしてあんな状態でうちを出て行ったんだ?」
レクスの背中が見えなくなり、少しの沈黙ののちにグランは問いかけた。クレアとのことを何も知らないらしいグランの問いに、ルカは正直に答えるべきか悩んでしまった。
もしグランがクレアのことを好いているとして、ひどいことを言われたから出て行った、なんて言ってしまうのはどこか悪いことをしているような気分になってしまう。
だが、本当のことを話さないとルカが訳のわからない行動をとったことになる。すべてを誤魔化せるような上手い嘘がつけるほど、ルカは器用でもなかった。
揺れているルカの様子に、グランは肩にそっと触れて「何かあったんだな?」と加えて尋ねた。
「えっと……」
「俺が何か、お前をそうさせるようなことを言ったりしたか」
「そ、そんなことない! パパはいつも優しいよ……!」
「そう言ってくれるのはお前くらいなもんだ」
微笑して、グランはルカの腕を引いて洞窟の方へ歩みを進めた。
「ここは少し冷える。うちに戻ろう」
ルカの足取りは重く、せっかくうちに戻れたというのに浮かない顔をしていた。しかし、数日ぶりに戻った住処はやはり落ち着く。洞窟の中ほどに広げられた敷物の上に座り込んだグランを見て、ルカもその前に小さく縮こまって座った。
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