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第2話
「秀彦っ!!!!」
バターン!とドアを開けて、靴も揃えずに上り込む。勝手知ったる隣の家で、お互いこうしてインターフォンも押さずに行き来して10年以上過ごしていた。
秀彦の部屋に入ってみても、人の気配がない。
「なんだよー、風呂かあ」
遠くで水の音が聞こえる。今日も熱いし、シャワーでも浴びてるのだろうか。
勝手に部屋のエアコンを入れてどさっとベッドに倒れ込むと、ふわりと甘い香りがした。
「せっかく一番に見せようと思ってたのに…」
握りしめた答案用紙が、掌の汗で湿ってきた。ごろごろとベッドの上で転がると、いい感じに部屋が涼しくなってくる。
「やべ…昨夜遅かったしな…」
ふああ〜…と大きな欠伸が一つ。ごしごしと目をこすっても、一度閉じ掛けた瞼は再びぱっちりと開く気配は全くない。
うん、しょうがねえな。頑張ったしな。睡魔には誰も勝てねえわ。
そう自分を納得させて、ふっと柔らかな波に攫われるように意識を手放した。
すぐに深い吐息に変わり、少ししてから力の抜けた掌からはらりと答案用紙が床に落ちる。ひらひらとドアの前に舞い落ちたところで、それがゆっくりと開いた。
静かに部屋に入って来た人影から、ポタリと雫が垂れ、雄介の頬に落ちる。
「んぅ……ひで、ひこぉ…」
ふにゃりと笑って枕を抱きしめるその体にそっとタオルケットを掛けてやり、その傍に座る。
「っとに、人の気も知らないで…」
ゆっくりと撫でた唇は、表現し難いくらいに柔らかく感じた。
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