10 / 12

第10話(Rシーンあり)

 ――水の中を歩いている。  そんなふうに感じるのは脚の間が濡れているからで、なんで濡れているかといえば、後孔から透明な液体が漏れて足をつたって流れてくるからだった。  正真正銘、オメガになったのだ。  正確には「オメガになった」のではなくて、本当はオメガだったものがようやく本来の自分を取り戻しただけ、なのだろう。  猥談で聞いたことはあっても、自分の股が濡れているのはなんだか現実味がなかった。頭を朦朧とさせる発情の熱と羞恥心の間で、自我がゆらゆら揺れている。  家に着くと二階にあがり、エイダンのベッドにおろされた。服が擦れた刺激で、びくんと体が震えた。 「セオ、つらいのか?」 「下半身が……」  自分で身をひねり、下穿きを脱げば、前も後ろもぬちゃぬちゃと水音がした。しばらく弄っていなかった雄もぷるりと頭をもたげ、開放感に震えていた。  エイダンは部屋の中をうろうろしている。タオルを出したり、よく分からない小瓶を取り出したりして、忙しない。 「……先にシャワーを浴びてくる」 「まって」  ぎゅうと裾を掴んで引き留めた。エイダンがどこかへ行くのはいやだ。 「……ほしいんだ、エイダン……俺の中、埋めて……いっぱいにして……」  潤んだ目であられもなく訴えかけると、エイダンはぐううと唸る。歯を食いしばりながら俺を押し倒した。寝台に体が弾む。 「君は……アルファを知らない」  今にも突き動かされそうな衝動をこらえるように、声を低めた。 「一回や二回じゃ足りない。君の腹がいっぱいになっても止まってやれる自信はない。それでも君は……僕に許すのか?」 「いいよ。エイダンだから、いい……めちゃくちゃにしたっていい……こんなに濡れてるのは、あんたが欲しいからだ」  頑是ない子供のように。羞恥心もプライドもかなぐり捨てて告げた。  エイダンが息を呑んだ。次の瞬間、俺の小さくて薄い唇を覆うように、分厚い唇が重なった。口の中へ侵入した舌に応えてエイダンの首に腕を巻きつかせた。  熟れた尻の割れ目に、指が入り込む。ぐちゅっと音を立て、エイダンの指を奥へと呑み込んでいく。 「ン……っ、ぁ……」 「優しくする」  鳶色の瞳に情欲がにじむ。エイダンがシャツを引きちぎるように脱ぎ捨てた。  そそり立つ雄を見るだけで、腹の奥がむずがゆくなる。蕩けたように体から力が抜けた。  他人の男根なんて興味なかった。  雄を求めるのはオメガだから? ふわふわとした頭でそう考えて、いや違うと思った。  エイダンだから反応するんだ。  寝台に膝をつき、上半身はうつ伏せになった。腰をぐいと引かれ、丸い尻を宙に浮かせた格好になる。 「ん、う、……っ」  尻たぶを押し開かれ、ゆっくりと太いものが挿入ってきた。 「ぁ、やぁ……ん……」  質量と熱に腰が逃げようとするが、逞しい脚と腕に阻まれて叶わない。体格差があるせいだ。悔しいけど嬉しい。エイダンの身体に組み敷かれ、包み込まれるのは安堵感があった。  突き入れられた雄が動きだす。やわらかく湿った内壁を侵しながら、大きな楔が、硬く張り詰め脈打っている。  ぬちぬちと淫猥な水音が部屋に響いて、耳からも性的な熱に浮かされた。  内側を擦られると、ひどく甘い刺激を感じる一点がある。 「あぁんっ!」  たまらず喘ぐと、腰を掴む手が力を強めた。触れられているところすべてがびりびりと痺れて、全身が性感帯になった気がした。  硬く熱い屹立が俺の奥を穿ってゆく。もはや膝で立っていられず、くたりと横たわった。  シーツに尖った乳首が擦れて、そこでもまた快感を拾ってしまう。 「ぅンっ…………ど、どこが、やさしく……だっ、ぁっ」  自分の嬌声に頭が痺れる。奥底に眠るものを暴かれて、すべて白日の下に晒される気がした。 「あっ、っ……ぁんっ!」  自分の白い脚が持ち上げられて揺れている。エイダンが内側をかき混ぜるように腰を動かした。すっかり蕩けてしまって、エイダンが抜き差しする場所の感覚はとっくに失せた。  なのに止めてほしくない。俺を支えていたどこかのねじがぶっ飛んで、狂ったように雄を求める。  これが発情。まさに発情としか言えないような、特別な時間だ。 「ぁっ、……ぁっ!」  ふいに指で乳首をつままれて、腰をうねらせた。その反応に気を良くしたのか、ぐっと繋がりを深めながらエイダンが胸を揉みしだく。 「他のことを考えていたのか? つれないな」  そういってまた、胸の尖ったところを指でもてあそぶ。その手が臍のあたりまで降りていった。 「僕がここに入ってるんだ。もっと感じてくれ……」 「あ、だ、だめっ……さわっちゃ…………あっ、あ――――っ!」  大きな快楽の波がやってくる。  胸を反らせると、体が波打つようにびくびく跳ねた。足の裏にも甘やかな刺激が走る。エイダンと比べればいささか小ぶりな俺の雄も、ぷしゅぷしゅと精を吹き出した。  連動するように、俺を抱くエイダンの腕の力がぎゅっと強くなる。 「今……持っていかれそうに、なった……だろ?」  蕩けたように笑いながら訊く。エイダンが眉をひそめて呻いた。その表情は快感に持って行かれまいと耐えているように見える。 「これは……セオの……?」 「きょうめい……してるんだよ……」  俺の胎とエイダンの雄が繋がって、共鳴している。そうとしか思えなかった。  物言わずとも、俺が「快い」と鳴けば、エイダンにもその悦びが伝わる。番には包み隠すことなどできはしない。 「こんなに感じてくれるなんて……大好きだよ、シャヒム」 「あっ……なまえっ、呼ぶのぁっ、あぁんっ!」  甘い痺れが尻から腹に駆け抜ける。脚を肩に担ぎ上げられ、抽送が早まった。  繋がりながらのシャヒム呼びは反則だ。腰はつらいが、腹の奥が疼いてしまって、後ろでエイダンの雄をきつく締めつける。  持ち上げられた脚の、白い腿がひくひくと震えた。さらに高く鳴いた俺はすでに何度か達していて、前からはもう透明なものしか出ない。 「もっとあげたい……シャヒム、君に、僕のぜんぶを」 「あぁっ、ぁんっ……!」  内腿をつよく掴まれ、エイダンの背が大きく震えた。雄が爆ぜる。内奥へ、熱くたぎったものが注ぎ込まれた。  エイダンの器官はアルファ特有の構造をしていて、精を注ぎ終えるまで後孔から抜けない仕組みになっている。  ようやく迸り終え、すぐに引き抜かれるだろうと思ったが、内側を埋めるものはまだ硬く、太さを保ったままだ。  まだ欲しい。もっと突いてほしい。抜かないで……。そう思いながら、シーツの上で切ない気持ちで息を整えていると、 「あ、れ……? でっかくなっ……た?」  エイダンの質量が増した。嘘だろ、と目で問えば、俺にのしかかる男は妖しく微笑んだ。 「君がそんな色っぽい顔するから」 「やっ……おくっ、だめっ……ぁぁっ!」  腰を進め、さらに深いところまで挿入ってくる。寝台が大きく軋んだ。  散々泣いて快がったのに、まだまだ快楽が押し寄せてくる。エイダンは嬉しそうに俺の涙をすすった。 「セオ……可愛いシャヒム……」 「や……ぁん……だめ……おかしく、なる……」  繋がりながら囁かれると、たまらない気持ちになって腰を振ってしまう。雄を呑み込む俺の尻肉を、大きな手のひらが揉みしだいた。さっきもイったばかりなのに、また腹が疼いて、後孔が濡れる。 「あ、あん……」 「お願いだ、僕の番になってくれ」 「つが、い……」 「生涯離れない約束を、うなじにつける」 「おれに……?」 「そうだよ」 「うん、……なる。つがいに、なる。俺も、エイダンだけ…………」  首に腕を、腰に脚を巻きつけて抱き返した。  濡れそぼった後孔もアルファの楔をきゅうっと締めつける。 「噛んでっ……俺のうなじ、エイダンに噛んでほしいっ……!」  愛してる。心からそう思った。 「僕もだよ」  口にしていないのに、エイダンが応えた。  面映くて小っ恥ずかしくて、俺には一生言えないと思っていた愛の言葉。共鳴している今なら、そんな気持ちごと、言葉よりも饒舌に伝わってしまう。  熱い息が首にかかり、獣のように何度かうなじを舐められた。ここに牙を立てるよ、と、たしかめるように。  やがてぷつりと皮膚が突き破られ、灼かれるような深い快感が突き刺さる。  本当の俺は、人一倍、欲ばりだ。  ひとりはいやだ。愛されたいし愛したい。  家もごはんも、あったかい布団も手放したくない。大きなソファでだらだらしたい。家族だってほしいし、一分でも一秒でも長く、愛する人と一緒にいたい――。  互いが互いの半身となった証の噛み痕を、指でなぞった。かすかな凹凸を指先で感じる。エイダンとの約束のしるしだ。  初めての発情は激しい嵐のようで、暑くて苦しくて不可解で……それでいて、身も心も蕩ける七日間だった。

ともだちにシェアしよう!