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第4話

風呂場から出ると、やけに部屋が静かだった。 疲れて寝ちまったか? 頭を拭きながらリビングに足を踏み入れ、海外ドラマ並のオーバーアクションで額を手で覆いたくなった。 海袮(あまね)が観ているのはテレビではなく、ノートパソコンの画面だった。確かに風呂場では、よく聞いてなかった。ノーパソと聞こえてれば確実に制止()めている。昨夜は面倒くさくて一時停止にして閉じただけだった。 今まさに、その時オカズにしたゲイビが再生されている。 海袮の両耳にはしっかりとイヤホンがささっていて、俺が出てきたことにも気付かない。膝ごと自分を抱き締めるように丸くなり、興奮しているのか肩で息をしているのが分かる。 ハイ、善い人終了〜。だってガン見してるぜこいつ。嫌なら、すぐに観んの止めるだろ。 後ろに立ってもまだ気付かない。背中から腕を回して右のイヤホンを抜き、左は聴かせておくために手で押さえた。 「──ひぁっ……!」 悲鳴のような声を上げて海袮は振り返った。瞳には潤むどころか涙が溜まっている。その瞳が揺れ動いたあと、俺を見つめてくる。完全に情欲をもてあましている眼だった。物凄く、えろい。 やべえって。そんな目で見られたら、どうでもよくなるわ理性なんか。 「観たことあんの、男同士がセックスしてるビデオ」 わざとぼかさず、何をしているかハッキリと突き付けてやる。海袮は激しく首を横に振った。 「興奮した?」 首を前方に倒す。頷いたようにも俯いたようにも取れる。 外した方のイヤホンから、はげしく睦み合っている男の声が漏れ聞こえてきた。海袮には耳元でコレが流れている。 「──口、ねえのかよ」 黙れば空気を読んでもらえるなどと思えないよう、強めに言うと小さく答えた。 「……した……」 くっそ、このくらいで恥ずかしがってんじゃねーよ。それこそ無茶苦茶に、したくなる。 「どっち見て感じてんの。挿れる方と挿れられる方」 海袮が再び黙る。 その態度が煽るだけだってのにな。 「答えろよ」 顎を掴んで顔を上げさせる。 「……こっち」 海袮は指でモニターを指す。もちろんそれじゃ許さない。 「言葉で言えって」 「……っ、いれ……られる、ほう……」 泣き声のように掠れている。 「へー。ケツに突っ込まれたいんだ」 卑猥な単語で揶揄(からか)いながらニヤニヤ笑うと海袮は膝に顔を埋めた。 「じゃあする?俺とセックス。おんなじコト──してやるよ?」 腕を回して抱え込みギュッと力を入れて、耳元で囁く。それだけで、海袮の体が感じたようにビクッと震える。 「っ……あ、っ」 実際、感じたんだろう。甘すぎる声が漏れた。 手のひらで撫でながら体をさぐり、左胸に当ててみる。激しい鼓動がそこから伝わってきた。海袮の口は開きっぱなしで、はっはっと浅い呼吸を繰り返している。 あーあ。そんなんじゃ、すぐ酸欠になるぞ。 いま尋ねた質問は回答を免除してやる。でも甘やかしたわけじゃない。答えがどうであれ、もう俺が決定した。 「嫌だって言っても喰うけどな。お前かわいいんだよ。おれ悪い大人だから我慢なんかしねえし」 笑いながら耳元に唇を押し当てる。吸い付きながら首筋も舐めた。 「あ、あ、あッ……秋、……あき、ら……ンンッ」 自分の体を制御できないのか、発作のようにビクンビクンと突発的な震え方をする。 「もういま、何されても気持ちいー感じ?」 「ん、うん、ふッ、う……ん」 俺の腕を掴もうとして指を引っ掛けては、力なく滑り落ちていく動作を繰り返す。 ──なんもしてねーのにトロットロ。こんなの見せられ続けて、堪んねえのは俺の方だな。 「じゃあ、あっち(ベッド)行くか」 「うわ、あ……っ?」 ノーパソを閉じ海袮の体を抱え上げる。小柄なお陰で俺にも持ち上げられた。良かった、なんとか格好がつく。

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