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第7話
「たぶん下手だよ俺……」
──そんなこと露ほどもアテにしてねえよ。俺が望んでんのは、もっと別のもんだ。
「なら上手くやる努力しろ」
だからとうぜん教えてやる、なんて優しい言葉はかけてやらない。
「──ん」
海袮 は小さく頷いて舌を伸ばした。恐る恐る触れる舌はくすぐったいだけだ。亀頭の周りを一周舐めると口の中に収める。それも銜えて若干上下するだけで、快感を引きずり出すには程遠い。
「ホント下っ手くそだな、お前」
「んーんーっ」
銜えたまま、なにか抗議している。だから言ったじゃん、そんなとこだろう。
分かってねーな。お前が拙 いから興奮すんだろ。テクもクソもないフェラしといて、萎えもしねえ時点で気付けよ。
「おい、こっち見ろ」
「……ん」
海袮が目を上げた。グロテクスなものと、それを口に含まされている幼気 な少年との対比が背徳的すぎて、下腹部にズグンと血が集まる。
おいおい俺にそんな 趣味ねーよ。
これはアレだ。無色透明なものを自分の色に塗り潰していく時の快感だ。年齢とかは関係ない。ただ真っさらな海袮が俺によって汚されていく──そこにゾクゾクする。
どこまでそんな無垢な目で俺を見れるのか、興味を抑え切れなくなった。
「歯、たてんなよ」
海袮の頭を押さえて固定する。目を見つめたまま、ゆっくりと腰を口の奥へ進めていく。
海袮は俺の意図が分かっても抵抗せず、根本まで飲み込むために大きく口を開いた。
舌の付け根で一度止める。少し目が潤んでいる、たぶん生理的に出た涙だ。
まあここまでなら、それほど苦しくはねーよな。この先は分かんねえけど。
強引に進めたら流石に怒るかもしれない。その時はその時だ。
俺は腰を、なお奥へ押し込む。咽頭の壁にぶつかるまで突っ込んだ。
「っは、──はぁ、は……っん、ん、っっは」
器官が塞がれて相当苦しそうだ。
辛そうだな。嫌なら押し退けりゃいいんだよ。嫌がる顔もきらいじゃねえし。変態だからな。止めてくれると思ってんなら、そんな甘くはねえんだよなぁ。
逃げようとしない海袮を見て、俺はさらにその位置で腰を遣う。強引に、まるで物を扱うように。
だけど物じゃない、物なんかじゃねーよ。当たり前だ。人だからこんなに興奮すんじゃねえか。無機物のオナホ相手に興奮なんかしねえ。意志のある人間を自己満足のためだけに使うから、こんなに昂 ぶんだ。
「んっ、んっ……あ、ぅ……っんぅ──」
もう涙があふれ出して見えているのか分からないが、海袮はまだ俺をじっと見つめている。苦しそうな吐息に妙に甘い喘ぎが加わって、たまに身体を切なそうに震わせている。
──マジで?これでも感じんのかよ。
「苦しい?でもやめねえよ」
試すつもりで訊いてみた。
「ぅう、うん……らい、じょぶ……っはあ」
海袮はかすかに首を振る。
気まぐれに、押さえている手で頭を撫でた。涙まみれの瞳が細められ、犬猫のように頭を擦りつけてくる。
なんだよ──。
沸いてきた感情は忌々しくさえ思えたが、認めるしかなかった。
くそっ──かわいいじゃねぇか。
もう十分だ。
涎でベトベトに濡れた自分のち○こを引き抜き、ティッシュで海袮の口を拭いてやる。
「秋良がやさしー!」
「あーはいはい」
甘えて抱きついてくるのを思わず抱き返す。
「う、わ……」
海袮が戸惑った声を出す。
自分からなら良くても、俺に抱き締め返されたことが思いのほか恥ずかしかったみたいだ。
──こいつ、今おれにされたこと、何とも思ってねえのか。
どう捉えて良いのか分からない。
「お前さあ、マジで変な大人に着いていったりすんなよ」
俺で良かったな、とは口が裂けても言えないが、体を傷付けたり動画を撮って脅したりしない分マシだろう。この関係も一晩限りだ。
「行くわけないじゃん」
──どの口が、いうんだよ。
俺は少し笑う。
だが、その実そんなに余裕はない。主に下半身を重点的に、痺れに似た感覚が重苦しく主張している。このままじゃ襲いかかる。その前に海袮から身体を離して宣告した。
「海袮。足開くか、ケツこっち向けろ」
「──うん……うん。え?」
「もういいや」
聞き返す海袮の体を勝手にひっくり返し、うつ伏せにする。
「──秋良?」
「なんだよ」
まだ状況を理解していないようだが、腰を上げさせる。
「うあ、待って。やだ、こんな格好──」
「こんな格好もなにも、ほぐすんだから我慢しろ」
話す間に取り出した粘液性の高いジェルをチューブから出し、孔に塗りつける。逃げようとする腰を抱え込んでそれを防いだ。海袮の顔に背を向ける形で孔を開いて中にゆっくり押し込む。
もっと抵抗があると思ったものが、指一本ならスルスルと飲み込んでいく。
「く、はっ、んあぁ……」
海袮の声色に苦痛は感じられない。どころか悦んでる。入れた指が奥に引き込む動きで、グイグイと締め付けられる。
いや、初めてでこんなにスムーズって有り得ねえだろ。
「お前……後ろも自分で弄ってたのか」
「……あっ、は……ッ」
「答えろって」
少し乱暴に、一回り円を描くように指を動かす。
「ふ、ぅ……んっ……うん……」
「は、淫乱。二本も余裕だな」
指にジェルを足して三本目も入れてみる。多少の抵抗を見せて孔は指を飲み込んだ。
あとちょっと拡張すれば挿入できんじゃねえか。
さすがにいきなりは無理だと思っていたのに。ここまで準備が整ってるとは予想外だ。
「男に突っ込んで欲しくて自分で拡げてたんだ?」
嘲笑するように言うと海袮は沈黙した。体の向きを変えて顔を見ると目に涙を溜めている。
怒るならまだしも悔しそうってなんだ。何にしてもそそる顔ではあるが。
「違う……そんなんじゃ、ねえ」
「違わねえだろ。じゃあ、なんだよ」
「──俺は……好きな人と、えっち……したくて──」
いじらしいことを言う。それを鼻で笑った。
「じゃあこれは、なんなんだよ?」
性欲に負けたってことになるな?
どう言い繕うかと思って口を閉じる。
「……なら、いいんだよ」
「あぁ?」
よく聞こえなかったが、まあいいか。どうせ言い訳しかねえもんな。
無駄口はやめにして、行為を再開する。
「──ってことはお前、中で感じんだ」
三本の指をバラバラに動かしながら、ゆっくり内側を押し拡げていく。
「っ、ふー、っふ、ぅっく──」
訊くまでもなかった。他人に触わられる興奮か、若さのせいか、さっきまで萎えていたはずが重力に抵抗し始めている。拡張を続けながら前立腺も探って、やわやわと押しながら撫でる。
「は、ああ、あー。……っ、は、ぅん……」
「あーあ、それ完全によがってるよなぁ」
そう言ったとたん海袮は枕に顔を押し付けて、声を殺してしまう。苛めが過ぎたか。
それじゃ反応が分からなくてつまんねぇ。
往生際悪りぃことしてんじゃねえよ。こっちはもう突っ込まないと収まりつかねえんだからな。
「ほら拗ねてないで、こっち向け」
両足を持って、また強引にひっくり返す。
「やだ、っやだ──!」
海袮は枕を抱いたまま仰向けになったが、まだ顔を隠している。
「なんだよ気持ちいいんだろ。ならそう言えよ。俺は素直なやつが好きなんだよ」
「──そう、なの?」
「そうだよ。快楽に弱くて、あんあん言っちゃうやつがいーの。その方がえろくてかわいいだろ」
俺は海袮の枕を奪い、顔を見ながら指の動きを再開した。ゆっくり、感じる所だけを狙ってぐりぐりと押し付ける。
「ぅあ、はー、はー……っ」
「指だけじゃ奥の方まで届かなかったろ。おもちゃとか使った?」
指を深くに差し込みながら訊く。
「──使って、ない……」
「この、ずっと奥。挿れたらそこまで届くぞ。──欲しくねぇ?」
限界までねじ込んで、耳元に囁いた。短い息を吐き、ここぞとばかりにしがみついてきた海袮がこくこくと頷く。
すぐにひっつきたがるな、こいつ。だけどそれも嫌じゃない。
「秋良ぁ……なかジンジンする……なんで、なに、これぇ……」
肩に額を擦るように押し付けて、海袮が切ない声を上げる。
腰、動いちゃってんじゃん。自分で気付いてねえのかよ。
その動きに合わせて指を抜き差しする。海袮の声に鼻に掛かった甘い響きが含まれる。
「指じゃ足んねーんだろ」
「ん、ぅ……これ、どうすれば、いいの……」
クチュクチュという濡れた音とくねる身体にそそられて、噛み付くように目の前の鎖骨に吸い付き、舌を這わせた。
──えろい身体みせつけて煽りやがって。はー、もうブチ込みてぇ。
頭が麻痺してきた。形振 り構わず腰を振りたい。ガキみたいな性欲に支配されそうになる。
「っは……分かってるくせに」
「ふ、……あ、っ、あ、秋良ぁ」
もどかしそうに腰を蠢かす海袮に応えて、大きく卑猥な動きでグチュグチュと中を抉る。もう自分でも分かってるだろう。そこで快感を得ようと俺の指に合わせて腰全体が波打っている。
もっと見てぇ。こいつのえろい表情 。こんな風に性欲にまみれてグズグズになるところを。
堪んねーんだろ。こんなもんじゃ満足できねえって、身体がいってんじゃん。
「欲しいって言えよ」
「……ん、うーっ、欲しい。秋良がほしいー……」
また黙るかと思ったら拍子抜けするくらいに素直だった。欲望に負けたのか。ホントこいつ俺のツボ突いてくるわ。……まずいなー、本気で欲しくなってくんだろ。
こんなの行きずりと変わらない。明日になれば何も無かった顔して別れるっていうのに。海袮に背を向けてゴムを着けながら苦笑した。
──まあ今だけでも楽しんどくか。
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