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第2話
-はっきり言う。
樹生が僕の気持ちを聞いてきた事は一度もない。
それが、たとえ些細な事でも。
凄く重大な事でさえも。
全て、樹生が決めてきた。
僕の中には当然、不満が溜まる。
『僕の事を、僕でもない樹生が勝手に決めるな!!』
僕の抗議を樹生は笑って相手にしてくれず、相変わらず僕を振り回す。
だから…僕は樹生が苦手になった。
-それなのに。
何故か、そんな樹生にいきなり告白された時は吃驚した。
最初はいつもの樹生特有の冗談かと思った。
いや、むしろ冗談の方がよかった。
冗談であってほしかった。
でも、違った。
樹生は本気だった。
(冗談じゃない!!)
吃驚すると同時に血の気が引いた。
当然、幼い頃から樹生を苦手としている僕はその告白を即座に断った。
だが、樹生は何故か僕も樹生に好意を持っていると固く信じ込んでいるらしく、僕が照れて告白を断ったと勘違いしているらしかった。
(………どうしてそうなる!?)
僕は唖然としたが、樹生に抗議しても無駄な事は分かっていた。
樹生は幼い頃から僕の気持ちは自分が一番よく知っていると思い込んでいたから。
そして。
樹生に告白されて唖然としている僕に、なんと樹生はいきなりキスをしてきやがった!!
(………気持ち悪い!!)
思わず、すぐ、顔を背けたが、樹生はそんな事、気にせず満面の笑顔でスキップをしそうな勢いで歩いて行った。
最初の内は何度か僕も抗議したが、彼は聞く耳を持ってくれなかった。
馬耳東風。
(皆に対しても同じなのだろうか?)
-違った。
何人の話には耳を傾けるのに、何故か僕の抗議は樹生には聞こえない。
随分、都合のいい耳をしているらしい。
だから結局、僕も疲れて諦めてしまい…自分の気持ちを樹生に伝えるのを止めてしまった。
だが、今回ばかりは頷く訳にはいかない。
初恋もまだな僕なのに、同性の彼と付き合えとは!!
しかし、樹生はもう僕とカップルになったつもりでいる。
何故なら、樹生から告白をしてきてキスをされた日から今以上にスキンシップが激しくなった。
人前でのハグはもちろん。
人がいない時は当然のように、キスを仕掛けてくるようになった。
…樹生にしては珍しく、キスをする時はいちよう周りにバレないように気をつけているみたいだけど。
だから僕は樹生と二人きりにならないように注意している。
最近は身の危険も感じてきた。
樹生は誰にも…僕にも…バレてないと思っているみたいだけど、その手の本をこっそり買って勉強している事は僕にはバレバレなんだよ。
(…ヤバイ…このままだと、本当に僕の貞操の危機…)
-何とかしないと。
-何とか樹生から逃げる方法を考えないと。
-何とかして樹生から逃げないと…。
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