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浅井医師が「110」とプッシュ途中のスマートフォンをようやく手放したのは、それから十分後。 困り果てたナツが指を鳴らすと、床に置いた袋からふよふよとプレゼントボックスが浮き上がり、空中でビロードのリボンが巻きついていくという芸当を披露してからだった。 「サンタクロース?」 「……うっす」 例の真っ赤な服と帽子を着ているナツが、小さく頭を下げる。帽子の裾からはねる、つんつんした金髪と相俟って、とても派手な風貌だった。 「本当にいるんだね。まだまだ夢のある世の中だ」 感嘆する浅井に、なんとなく褒められた心地になったナツは頬を染める。 「いやあ、俺なんてまだ見習い中の見習いなんで。サンタの中じゃ一番歳下だし」 「ああ。高校生の悪戯かとおもったよ」 ぽんっとシャボン玉が弾けるような音を立て天井から落ちてきたプレゼントを、ナツが丁寧に両手でキャッチする。高校生と言われ、彼はむっとした。 「……でも、サンタってイブの夜に来るんじゃないの?もう25日だけど」 首をかしげる浅井に、ナツはひくりと喉を震わせる。 「そ、それは、俺っ、段取りが悪すぎて、昨日の内に配り終えられなくて……。毎年こんなんだから仲間も呆れて手伝ってくれねえし。赤鼻のトナカイにすら鼻で笑われて置いてかれちゃったから、徒歩だし……!」 この病院でようやく終わりなんだと涙目になった彼が視線を上げた頃には、浅井はかわいそうなものを見るような目つきをしていた。 ナツはいよいよ泣きたくなる。 「それで、ナツくんみたいな落ちこぼれのサンタが、なんでわざわざ俺のところに来てくれたの?」 なんだか鼻につく言い方だなと苛立ちつつも、ナツは呻くように溜息をついた。 「俺が聞きたいよ。ここには入院中の子どもたちがいるって、書類にもちゃんと書いてあんのに……」 ナツはバインダーを取り出して、ぺらぺらとめくってみせる。書類とはまたアナログな手段だなと浅井は苦笑しながら、ナツの肩口からそれを覗き込む。 「確かにうちは、5年前までは入院患者も受け入れてたけど、今は外来だけなんだ。近くに設備の良い提携病院ができたからね」 「5年……前……?」 嫌な予感がしたナツは、書類の右上に目をやった。見切れそうになっている端の部分、スタンプされている更新日付はちょうど5年前。誤って持ち出してしまったのだ。 愕然としているナツを見てこらえきれなくなったのか、浅井はくすくすと笑い始める。 「あはは。とってもいいキャラしてるね、ナツくん」 意地悪そうに、浅井の口元はにっこりと弧を描いていた。

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