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「ええと……浅井さん、ですっけ。お騒がせしてすんません、お邪魔しましたー」 情けなさや恥ずかしさ、色々な感情が一気に押し寄せたナツは、肩を落として踵を返す。渡されることのないプレゼントが詰め込まれた袋は、ずっしりと重い。 これから帰って先輩たちにどやされるのかと思うと気が重かったが、そもそも彼が帰ることは叶わなかった。 ベッドに腰掛けた浅井に、赤いコートの裾をきゅっと掴まれていたからだ。 「あの……ちょっと、なんなんすか?」 「俺にはプレゼント無いの?」 サンタでしょ?と言う彼の眼鏡の奥に映る瞳は、子どものように輝いている。 「あんたは大人だろっ!?」 「徹夜明けで、ようやく眠れたところをキミに邪魔されたんだから、お詫びの気持ちくらいもらえて当然じゃない?」 「んなこと言っても、俺は子どものおもちゃしか持ってねえよ!」 「準備が悪いなあ。大人のおもちゃくらい持ってきてないの?」 「ご、誤解されるようなこと言うなっ、バカァっ!」 ええ、と駄々をこねるように浅井は口を尖らせた。 「それなら、すっかり冷えちゃったし、身体つかって俺のこと温めてよ。ナツくんは美人だから十分プレゼントになるし」 「……通報すんぞ、変態」 「通報されて困るのはナツくんだと思うけど」 「あ、そうだった……」 両手で顔を覆って、ナツは言葉を失う。 一方の浅井はしゅんとしたように眉根を寄せて、視線を床へと落とした。 「俺はね、仕事にのめり込みすぎて、妻と子どもに逃げられちゃってさ。サンタって聞くとどうしても子どもの顔が思い浮かんで、寂しくなるんだ」 「あ……」 若くして院長を務める彼には、それなりの苦労があったようだ。 書類をミスしたせいで傷つけてしまったと気づいたナツは、おろおろしながら、自身の金髪を人差し指で掻く。 「お、大人のおもちゃは無いけど……俺にできること、なら……」 「本当に?やった!」 じゃあ早速とでも言いたげに、浅井のベッドへと誘われた。 押し倒されると思いきや、そっと頭の後ろと腰を抱え込まれ、お姫様でも寝かせるような浅井の仕草に、ナツは不覚にも胸が鳴ってしまう。流されてはいけない、と唇を噛んだ。 「……俺、男なんだけど」 「知ってるよ」 冷えてしまった浅井の手が、体温を求めるようにナツの頬に当てられた。 びくりとナツの身体がはねる。 そのまま細い首まで滑っていく指先。 やけに色っぽい手つきと浅井の表情に酔わされそうになったナツは、気を散らすために慌ててそっぽを向いた。 さっきまでは暗くて気づかなかったが、サイドテーブルには浅井に贈られたらしいクリスマスプレゼントの箱や袋が置かれている。 添えられたカードの中には、ベタに口紅付きのものだってあった。 対照的に、小さな子どもが描いたらしいクリスマスカードの数枚には「あさいせんせ おおきくなったらけっこんして」とクレヨンで綴られている。 そんなものが、いくつも積み重なっていた。 ナツは、服を脱がせようとする浅井の腕を思い切り掴んだ。 「お前、独身だろ」 「バレた?」 浅井は悪びれる様子すら一片もなく、笑みを深くした。 「ぬけぬけと嘘ついてんじゃねえ、この野郎っ!」 ベッドから抜け出そうともがくが、しっかりとナツに体重をかけるようにして覆い被さっている浅井を押しのけるのは至難の技だ。 からかうようにべろり、と首筋を舐められて、ナツは喘ぎそうになる口を自らの手で塞ぐ。 指の間から抗議の声がもごもごと漏れて、その必死さを見た浅井は、楽しげに喉を鳴らした。 「お前モテんのに、なんでこんな夜に病院で寝てんだよっ……!」 今夜この場所に浅井さえいなければ、とナツは恨めしそうに睨む。 「急患があるかもしれないからね。詰めてたんだ」 「は?クリスマスなのに?」 「子どもにとって特別な夜に、病気なんかで辛い思いをして、泣かせるわけにはいかないだろ」 浅井は至極当然のようにあっさりと返した。 「この仕事は俺の使命だと思ってるけど、病院は親父から継いだだけで、俺はまだ何もやり遂げてないからね。実力と経験が足りない分、できることは何でもやらないと」 「……」 「あはは。ごめんね。すっごい恥ずかしいこと言っちゃったから、今のは忘れて」 浅井はキスをしようとして、ナツの前髪を右手でかきあげる。 顕になった強気な両目には涙が滲んでいて、浅井は動きを止めて驚いた。 「なんだよお前……ずりいよ。俺だってそうやって、ずっと、思ってたのに……だけど使命とか、笑われたりしたら嫌で……でもそんな風に迷ってる自分が一番嫌いで……」 満杯になったコップから、水が溢れるようだった。なんでそんなにかっこよく言えちゃうんだよ、という言葉がトリガーになる。 ぐすぐすと泣き始めたナツが吐き出す思いや憧れを悟って、浅井は弱ったように笑うと、ぽんぽんと彼の頭を撫でた。 「こんな夜に一人で寂しかったのは本当だよ。だから、ね、サンタなら……俺にプレゼントちょうだい。誰よりも喜んであげられる自信があるよ」 浅井の指がナツの目尻の雫を拭うように滑る。ナツの気が緩んだその一瞬で、後頭部を引き寄せて唇を奪った。大人のやり方だ、ずるい、言いたい文句は全て喉の奥に飲み込む他無かった。 「ん……ふっ……!」 工程される気持ちよさに、ナツは半ば全てを放り投げるような気持ちで目を閉じる。 「力抜いて。嫌なこと全部、忘れちゃっても誰も文句言わないよ。もう25日も終わる」 浅井は、彼の全てを受け止めてくれた。

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