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5.「抱かれる準備は出来ている」

 初めては男同士でも痛いと聞いた。こんなに大きいなら、もっと酷いことになるのかな? どうしよう。悲しませたくない。怖気づいている場合じゃないのに。  おろおろ逡巡していると、いきなりノエ様が僕の腕を引く。ぽすん、胸に飛び込む形に。  抱きしめられていると思うと、こんな時なのに心臓がうるさい。浅ましい僕。もっと触れたい。 「怖がらせてすまない。マリアくんが苦手なのは、知っているのに。痛いことも、苦いことも、寒いことも、悲しいことも」  ノエ様の手が、白味がかった灰色の髪を優しく撫でる。 「あ、あの……」  痛いのは嫌だ。でも、このまま終わりにしたくない。せめて少しだけでもノエ様に応えたい。 「……ぼ、僕、頑張ります……から、お願いします」 「いや、それならば。マリアくんが、私を、抱いてみないか?」  は? ええええっ、僕がノエ様を? 僕は自分の耳を疑った。 「私は、抱かれる準備は出来ている」  唖然として腕の中に納まったまま、そっとノエ様を仰ぎ見る。眉根を寄せ気難しい顔で、天蓋の模様を睨んでいる。でも、首元まで真っ赤だ。  ああ! もう! さっきの決意だとか今までの僕の存在意義だとか、全部丸っと吹っ飛んだ。  凛々しいのにいじらしいノエ様が大好きだ!  長子の姉様が婿を取って、うちの領地を継ぐ。次子の兄様が同じような伯爵家に婿入りして、繫がりを維持する。  僕は男性だけれど、マリア。飛び道具的にちょっといい政略結婚を狙って、嫁に行く前提で名付けられた。僕もそのつもりで生きてきた。  貴族ってそういうものでしょう? だって、領地には守るべき民がいる。  政治的思惑だけで決まった婚約者。けれど、でも。それでも、僕はノエ様に恋してもいいですか?

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