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第14話
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『面白い話というのは、今まさにあなた達の父上が信念をかかげて建設している最中のピラミッドについての噂なのよ』
ふと、ゆっくりと瞼を開けたスメンクカーラの頭に昼間聞いたアンケセナーメンの実に生き生きとした甲高い声が思い出される。
『あたしが話を聞いた書記の知り合いに石工の男の人がいてね、なんでもその人が仕事してる時にピラミッドで不思議なことが起こるんですって!!それが本当に不思議で不思議で面白くて堪らないのよ。あのね____』
意気揚々と話を続けるアンケセナーメンに圧倒されつつ、実はスメンクカーラーも興味を抱いてしまった【ピラミッドについての噂】の内容は、こう続く____。
彼女の話をまとめると、こうだ____。
《石工の男が黙々と作業をしている最中、ふと建設途中のピラミッドの内部のどこからか【音】が聞こえてくる。どうしても気になって確かめに行き、仕事を監視する役目の男の目を盗み、血眼で探したが【音】が鳴りそうな物などどこにもなかった。確かに聞こえてきたはずなのに……あれはいったい何だったのか____》
そういう内容で、こういっては何だが信憑性などまるで無い話だ。ツタンカーメンであれば『まったくもって下らない話だ』と突き放しそうなくらい疑わしい。
現に、アンケセナーメン本人を前にして流石に直接口には出さなかったものの、隣にいたツタンカーメンは明らかに彼女の話を信じてはいない素振りをあらわにしていた。
だが、運命とは面白いもので離宮を後にすべく出口まで歩いていた所、突如として一人の女官から「偉大なるヤークフ、スメンクカーラ様にお伝え申します。アクエンアテン王より――至急、ヌカザビドの広場に来るようにとの御命令です」と告げられ、ツタンカーメンと共に急いで向かった。
すると、このように言われたのだ。
『ヤークフ、それにスメンクカーラー。お前達もそろそろ王宮内だけではなく外のことを知るには充分な年頃になった。明日の昼より我が建てさせている最中のピラミッドへ視察に行け』
『民衆がどのような暮らしをしているのか――更には王になるべく民衆に対してどのように接するのが正解なのかを自らの目で確かめよ。よいか、間違っても王族としての立場を見誤るでないぞ。アンケセナーメンが同行を求めてると既にキヤから聞いている。本来ならば、許さぬことだが……今回だけは特別に同行を認める。当日の武官には、我が信頼できる男をつける』
スメンクカーラーは父にそう命じられた時、不安や恐怖はあったものの、それ以上に【好奇心】に満ち溢れていた。
いつも以上に丁寧な手つきで目の周りに孔雀石を砕いた顔料を塗り込み、更に肌には父アクエンアテンからの命令で胡麻油を何重にも塗り込み、日焼けに負けることがないように気をつけた。
扉を開けると、既に準備を終えていたツタンカーメンが呆れたような表情を浮かべて立っていた。すぐ隣には、相変わらず笑みを浮かべ続ける武官のホセもいる。
(ああ、そうか…………父上が我らを護衛するように命じたのか____)
頭の中では納得し何故にホセがいるのか理解したつもりでいても、やはりついこの間二人きりで過ごしたときのことを思い出してスメンクカーラーは彼と目が合っても、何ともいえぬ気まずさから直ぐに目をそむけてしまうのだった。
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