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第18話
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一旦、ホセとツタンカーメンと離れて奴隷から案内された小部屋に着き、汚れた足を洗っていたスメンクカーラーだったが、ここにきてあろうことか安堵感を抱き、つい、ため息をついてしまう。
この場には自分以外に誰もいないゆえに他人と対面する緊張から解放されたというのもあるのだが、それ以上にホセから一時的にとはいえ離れられたのが一番の理由だった。
ツタンカーメンが『ヒマの実に毒がある』と言ったことに関しては、どうせいつもの悪戯に違いないと思っているから不安は抱かない。
だが、ホセについていえば話は別だ。
(あんなにも幼い頃から側にいてくれて気にかけてくれているホセに対して……僕は何という愚かな感情を抱いているんだ____隠し事を話してくれと言われたのだって、僕のことを気にしてくれているからで……っ…………)
などと、悶々としながらも引き続き足を洗っているとふいにどこからか息遣いのような音が聞こえてきたような気がした。
そもそも、このトベと呼ばれる小部屋は奴隷専用の水場である。年中蒸し暑く、狭い場所で、せいぜい大人三人が入るのがやっとの場所だ。
それ故に奴隷以外の作業人が入ってくることはない。
更にいえば、先程いた場所で奴隷の動向を管理している男が『奴隷は全員いる』と言っていたのを聞いたため、今ここに彼らがいることは有り得ない筈だ。
(い、いや気のせいだ……気のせいに違いない____)
そうは思いつつも、スメンクカーラの頭の中はアンケセナーメンから聞いた【ピラミッドにまつわる噂話】の内容がぐるぐると渦のように駆け巡っていて不安が晴れることはない。
絶え間なく何者かの息遣いのような不気味な音がスメンクカーラーの身に付きまとってくる。
更に、異変はそれだけではない。
どこからか、微かに甲高い音が聞こえてきた気がしたのだ。まるで、トルガと呼ばれる楽器がなる時の『きぃぃぃ……っ……』という一部分の者は不快だと感じる特殊な甲高い音が聞こえ続けている。
更に、不快感さえ伴うその音は中々鳴りやまない。
スメンクカーラーは苦痛で顔を歪めながらも咄嗟に両手で耳を塞ぎ続ける。トルガは物凄く小型の楽器で奴隷を含む誰もが懐に隠し持つことが可能だ。
そのため、このピラミッド内のどこかで作業している奴隷の子供が、もしかしたら作業人の目を盗み、こっそりと鳴らして遊んでいるかもしれない。
しかし、先程から耳を塞ぎ続けているにも関わらず、一向に【音】は鳴り止むことがない。
(それどころか、どんどんと大きくなっているような____)
あまりの不気味さと不快感に耐えきれなくなってきたため、とうとう目から涙をこぼしつつ、息遣いが荒くなってきたスメンクカーラー。
しかしながら、【音】は突如として鳴り止む。
「スメンクカーラー様、先程からヤークフがお待ちです。おや、如何なされましたか?顔色がよろしくないようですが…………」
いつの間にかトベに入ってきていたホセが、背後から肩を軽く叩いてくれたからだ。
「い、いや……何でもない。こちらこそ、遅くなって済まなかった____」
不安は残るものの、いつまでもここにいるわけにはいかないと我にかえったスメンクカーラーは弟の待つ部屋へと戻っていくのだった。
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