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第21話

_____ _____ 我は、ふと目を覚ます。  数年前に現王になってからというもの、幾ら皆が寝静まる深夜といえども誰にも邪魔されずに睡眠に集中するのは随分と久方ぶりだと思い出す。 王になるまでのヤークフとして過ごした時間は何かと窮屈で、いつも【ナニカ】に追われては居心地の悪い思いをしていた。 我よりも遥かに賢く出来の良い兄のトトメスは神官達から慕われていたが、王となる資格の内のひとつである《野望》は生憎持ち合わせてはいなかった。   トトメスには《誰もを唸らせる賢さ》《誰からも注がれる信頼》《誰をも信頼させる懐の広さ》はあった。 我とは違い《他人の本心を見抜く力》《他人を捨てて自らの野望を実現する力》《他人を巧く利用する力》を持ち合わせてはいなかったんだと完全に理解したのは兄トトメスだった筈の《物言わぬ存在》を見下ろし足蹴にした【あの日】だった。 あの、我が誕生日の夕刻____。   兄トトメスは、最後に裏切り者の我に対して――あろうことか「誕生おめでとう……どうか、立派な王に____」などと皮肉じみた言葉を投げかけてきた。 こうでもしなれば、広大なエジプトの地を統べる【王】になどなれはしないのだ。 だからこそ、我は____ (時折【あの日】の片鱗を僅かにでも見せる我が息子の内の一人であるツタンカーメンを【ヤークフ】へと…………) (野心にまみれ穢れた【血】を引き継ぐヤークフへと……………) 「どうしたんだい…………イクナートン。凄く辛そうな顔をしているじゃないか。出会った頃に約束したはずだ。こうして二人きりの時は、余計なことは考えず本当の姿をさらけ出そうって。二人きりの時の貴方は、余の父様になってくれるって約束してくれたではないか。それが余にとって、どんなに嬉しいことか__聡明なイクナートンなら分かってくれているよね?」 隣に横たわるソジアクは、普段のような張り付けた偽物の笑顔は浮かべてはいない。周りの反応を気にした作り笑いではなく、年相応の、実に少年らしい表情を浮かべながら一糸纏わぬ生まれたままの姿で我のことを優しく抱き締めてくる。 それだけで、我は安寧を得られる。 考えてみれば、おかしいことではないか。 ミセンタの内のウリガンの現王ソジアクは我が息子のスメンクカーラーやツタンカーメンと然程年齢が違わない。  特に、次男のツタンカーメンとは一つか二つしか違わないというのに、我は息子達や妻に黙ってこのような奇妙な関係を何年も前から続けている。 【家族】とは、このように儚いものなのか――父として向き合うことすら《王務》を理由に避け続けていた我には分からない。 「イクナートン…………このエジプトにどんな都を築くのが幼い頃からの夢なんだったっけ?王として威厳を保ちつつ、奴隷や神官達もを唸らせ感心させるような偉大な力のある王になるのが夢なんだって……余の父様に話してくれたのは嘘?」 ふと、一糸纏わぬ姿のソジアクは床から起き上がり腰まで届く地毛の美しい黒髪を片手で持ち上げる。 すると、常日頃から日焼け止めを欠かさない故に滑らかな白い肌が露わになり、それと同時に我から背を向けたためソジアクの背中が露わになる。 右肩下から左腰付近にかけて斜めに走る痛々しい裂傷が我の目に飛び込んでくるが、今まで何度も目にしているため、今更息を呑んで驚いたりはしない。 「もちろん、トトメスを手にかけたことは、決して赦されることじゃない。罪は罪……でも、それで立ち止まるの?既に目の前に希望の糸は垂れ下がっているのに、それを見てみぬふりする?あの時は逃げ出さなかったのに、ここぞの時に逃げるのがイクナートンのやりたいこと?これからも決して逃げないっていうのなら、背中を撫でて?父様はいつだってそれをしてくれないんだ____こんなにも、痛いのに…………」 ソジアクにとって本当に痛いと感じるのは、実の父によってつけられた痛ましい裂傷などではない筈だ。 そして、息子とほとんど年が変わらない彼が真に欲している存在が我ではないことは理解しきっている。 しかし、我はこの秘密の関係を切る気など毛頭もない。 むろん、ソジアクとて我との関係を切る気などないのは明確であり、それを証明するといわんばかりに再び我の寝床へと意気揚々と潜り込む。 その様は、皮肉なことに息子達――特にツタンカーメンが今よりも更に幼い頃に我が寝床に潜り込んできた姿と重なってしまう。 あの時と違うのは、その後に我が起こした行動だ。かつて我は嬉しそうにはしゃぐツタンカーメンに見向きもせず言葉を発することもなく直ぐ様引き離した。 だが、今の我は心の底から安堵の表情を浮かべるソジアクを引き離すどころか、彼の上に伸し掛かると首筋に軽く口づけをし、そのまま我の唇は下へと移動していき敏感な部分を堪能する。 その度に、ソジアクの体は面白い程にビクビクと跳ね上がり、やがて室内に年に似つかわないような艶やかな嬌声が響き渡る。 ふと、どこからか視線を感じる___ ような気がした。 だが、すぐに忘れ去ることにした。 ここは、ソジアクと我の【秘密の部屋】____。 他の存在が入り込むなど、決して赦される筈がない。 _____ _____

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