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第一話 そよ吹く風は、君の匂いがして 5
首に付けられた重い金属の首輪。その輪の四方から垂れ下がる鎖から匂う錆の臭いには、もうこの鼻はとっくに慣れてしまっている。飢えぬよう食料はしっかりと与えている所はあの者らしいやり方だ。
鎖に繋がれたこの身の可動範囲、すなわち鎖の長さとこの檻の部屋の大きさは囚われの身だという事を時より感じさせぬくらいに余裕を持って確保してくれている。
ガチャン……。檻の扉が開かれ足を踏み入れる者が履いているのは金の装飾品が所々に散りばめられた濃い色の立派なブーツ。そこから長く伸びた足を上品に覆う毛皮のマント、その背中にはサランドの王国のシンボルが堂々と大きく刺繍されている。
「久しぶりだな、まだ死んではおらぬようで何よりだ。」
「……早く殺せ。」
「それを決めるのはお前ではない……この私だ。」
かがんだその男の背中から薄紫色の髪の毛がサラサラと流れ降りる。その男はこちらに手を伸ばし、王でありながらも家来達の目の前で囚人であるこの自分の頬に素手で触れた。
「……運命など強引にでも変えて見せよう。この私に付いて来られぬ者など切り捨ててしまえば良い。さて……お前はどうする?」
「貴様のような男の思い通りに操られるくらいならばこの舌を噛み切ってやるわ……女だと思って甘く見るな、死ぬ覚悟ならばとうの昔に出来ておる。」
優しく触れられた手を拒絶し、その男を睨みつけてそう言ったのだ。すると男はクスっと微笑み、まるで「その言葉が聞きたかったのだ」とでも思っているかのように余裕のある表情でこちらを見つめる。
「お前にはレースの付いたドレスよりも泥がこびり付いた穴だらけの服が似合う。」
鎖に繋ぎ檻に監禁している割には自由が多すぎるこの環境。囚人に出すとはとても思えないよう贅沢な食事……この男の趣味なのだろうか?もうこんな生活を1000年近くも続けているのだ。そして男が顔を出す度に決まって彼に聞く事が一つある。
「……あの子はどうしている?」
「ちゃんと生きているよ、頑張って任務を果たそうとしているんじゃないか?」
「この悪魔め……私は必ずお前を呪い殺す!!」
彼の任務が果たされたその時には、また……愛する我が子を失うのだから。
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