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第二話 そなたの帰りを待つ者 8
早足で客間に戻り皆と合流しようとしたジョシュアだったが、そこには誰の姿も無かった。首を傾げて廊下を見渡すがどこにも彼らの姿が無い……神隠しにでもあったのだろうか?
屋敷を歩き回りクリス達を探すジョシュアは久しぶりに自室の扉を開けた。何百年ぶりだろうか、部屋の中はあの頃のまま何も変わらずに綺麗に保たれていた。きっとベンやジュリア達が掃除をしていてくれたのだろう。ベッドに腰掛け一息ついたその時、何者かに身体を硬直させられた。
ライアン
「……久しぶりだな、ジョシュ。」
その者はジョシュアの隣に座り彼の顎をそっと持ち上げた……ジョシュアがずっと会う事を拒んでいた、兄のライアンだ。
ライアン
「なぜ何も告げずにここを出て行った?」
ライアンがセンスを解くと同時に立ち上がり距離を取るジョシュアは兄を酷く警戒しているように見える。
ジョシュア
「……あんたもその要因に含まれてるよ。」
ライアン
「……それが久方ぶりに会う兄貴に向って言う事か?」
ジョシュア
「あんたのこと兄貴だなんて思いたくも無いよ。」
目を合わせようともしないジョシュアのその態度に応えるようにライアンは立ち上がり、後ずさりするジョシュアを壁へと追い込んだ。パシっと優しくも強引にジョシュアの顎を掴んだライアンは、その息遣いがジョシュアの鼻先を温める程に顔を近付けこう言ったのだ。
ライアン
「……生意気な弟には少しばかり仕置きが必要だな。」
眉間に皴をよせ、何かについて己と闘いっているような、そんな色気のある顔を見せるジョシュア。この体温を恥じらっているのか?それとも敢えてその様な態度を取ってこちらを挑発しているのか……どちらにせよライアンには今ジョシュアから離れる理由など見つかりはしない。理由を敢えて見つける、そんな愚かなことに何のメリットがある?
鮮やかな色を付けて咲く花が枯れ、緑が広がりそして木々の葉がいつしか舞い散りその枝には雪が積もる。もう何度そんな景色をお前無しに眺めてきただろう。お前はそんな遠い場所で何に触れ、何を思い過ごしていたのだ?
……ずっと長い間、お前を待っていたのだ。
そっと触れた唇から全ての遠い記憶が時をかけるように蘇り、そしてその瞬間、思い出した。何度も柔らかく触れては僅かに離れ、また口付けては懐かしきその味を確かめた。今やっと、この世で一番に愛する弟がこの腕の中に舞い戻って来たのだ。
ライアン
「会いたかったよ、ジョシュ……。」
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